I saw the dead, the great and the small, standing before the throne(2)
赤い蟷螂の鎌が左、右と振るわれてオルフェノクの胴を払い、二三歩よろめいて倒れたオルフェノクは、蒼い炎を上げるとじきに燃え尽きて、灰と化した。
それが最後の一体。G3‐Xは軽く息を吐くと、周囲を見渡した。
死者はなかったものの、こちらのG5も概ね装甲にダメージを負った。カメラにダメージを受けて使用不能となった者と、胸装甲を砕かれ意識は保っているが負傷した者がそれぞれ一づつ、行動不能に陥っている。
「氷川さん、一度戻って下さい、体勢を立て直さないと」
「僕は大した損傷も受けてませんし、G3‐Xのバッテリー残量も十分です。このまま、拠点に先行した津上さんを追いたいのですが」
「しかし単独行動では」
「以前はずっと単独でしたよ。心配ありません、無茶はしませんから」
尾室の指示が通信越しに飛んできたが、素直には従えなかった。G3‐Xはまだまだ戦える、休んでいる暇などない。
G5達は一旦Gトレーラーへと引き揚げていくが、引き揚げようとしないG3‐Xを見て、赤い蟷螂は下ろしていた両手の鎌を振り上げ再び構えた。
「お前も戻れ、そしてここから離れろ」
「……僕には、ここを調査する任務があります。子供のお使いではないんです、理由も知らずに退却はできません」
まさかケルベロスを構えるような事はしないが、G3‐Xは退かず、正面に赤い蟷螂を見据えて動かなかった。暫し睨み合いの形となる。
「お前がいては、津上と乾が満足に戦えない。進むなら叩き潰してでも戻ってもらう」
「それが分からないというんです。なぜ人間がいてはいけないのか、津上さんと海堂さんと一緒にいた人は、それでは人間ではないんですか」
「王は体を砕かれても、魂を人に宿らせ、人を渡り歩いて命を永らえる。宿るべき人間が傍にいては、あいつらは王の体を滅ぼすわけにはいかなくなる」
G3‐Xが軽く、え、と声を上げた刹那、地面が縦に大きく揺さぶられ始めた。
最初は軽微だった震動は、徐々に激しさを増して、唸りのような地響きも轟き始めた。
じきに、廃墟の門の中の地面が盛り上がり始め、轟音と砂塵を撒き散らして地下から掘り返されたように、大きな穴が開いた。
G3‐Xの立っている地点から塀の中迄の見通しは、夜という事もあり良くはない。まして掘り起こされた土が土煙となり、やや離れた地点ですら視界は最悪の状態となった。それなのに、なぜ穴が巨大と分かったか。その穴から、太い閃光が天に立ち上っていたからだった。
天使の梯子というのだろうか、厚い雲間から覗く陽光のように神々しい白い光の帯が天を貫き立ち昇る中に、人型の何かが見えた。
「奴ら、仕留め損ねたな」
低い声で淡々と、赤い蟷螂が口にした。
カメラの望遠を最大にすると、光の帯の中の人型の様子を、朧気ながら漸く捉えられた。何かバッタのような、昆虫じみた顔をした、全身灰色をした人型の胸には、二つ大きく穴が穿たれて、光が漏れだしている。
「あれは……」
「あれが王、だろうな」
赤い蟷螂の答える声には、強い警戒の色が浮かんでいた。
目の前の光景は、氷川の記憶の中から捜し出すのならば、快晴の海のただ中で暴風雨に見舞われていたあかつき号の有様によく似ていた。人知の及ばない、人ならざる大きな力の作用を、嫌でも感じ取らずにはいられない。
「そうだ……津上さん、津上さんは」
あれが地下からダメージを負った状態で現れたという事は、翔一と海堂ともう一人は、地下にいたのではないか。そう思い当たり、G3‐Xは駆け出そうとするが、赤い蟷螂に後ろから押さえ込まれ阻まれた。G3‐Xよりはかなり細身にも関わらず、その力は思いの外強く、振り解けない。
「待て、お前は近付くなと言っている!」
「離してください、津上さん、津上さんを助けないと!」
「落ち着け、お前には聞こえないのか」
赤い蟷螂の言葉にやや冷静さを取り戻して、耳を澄ます。土煙が巻き上がる低い轟音に混じって、何かが砕ける音、エンジン音のようなものが、微かに聞こえる。
ややあって、高速で飛び上がった一つの影が、王の周りを旋回する。間違いがない、アギトのバイクが扁平な乗り物へと変化した形――マシントルネイダー・スライダーモード――が人影を二つ乗せ、宙を駆けている。少し遅れて、赤い人影が、背中のエンジンらしきものから噴射煙を白く上げて浮上してくる。
更に、三体のアンノウンが、羽ばたくわけでもなく音なく浮上し、三角形を描いて上方から王を取り囲んだ。
やがて、王の背中から、何かが生え出た。触手のようなそれは幾本も王の背後に広がり、大きく広げた翼のようにすら見えた。
「いいか、あれはお前ら人間の手に負える相手じゃない。あの車で早く、出来るだけ遠くに離れろ」
目の前の光景にただただ茫然とするG3‐Xに追い討ちをかけるように、赤い蟷螂の鋭い声が飛んだ。
マシントルネイダーは旋回しながら降下してきて、G3‐Xと赤い蟷螂の目の前で停止した。
「氷川さん……海堂さんの事を、お願いしていいですか、出来るだけここから離れて」
スネークオルフェノクはトルネイダーから下り、二三歩下がる。G3‐Xは、アギトの言葉に首を横に振って応えた。
「納得できません、僕は人間だから戦うなっていうんですか、君だって人間だ、僕は納得できません」
「ああもう……そういう事が言いたいんじゃないんです。俺だって氷川さんの力を借りられる状況なら喜んで借りたいんです。でも今は無理だから」
とにかく頼みましたよ、とアギトは一方的に言い残して、トルネイダーは浮上してあっという間に王付近の上空へと浮上する。
「おい、さっさとずらかるぞ。俺もお前も、もう役割は果たしたんだ。いたら邪魔になるだけなんだよ」
「嫌です、納得できません!」
「お前が納得するとかしないとかなぁ……って何かデジャヴュだぞこの状況! いい加減にしろおめぇはこの石頭! 程度を知れ!」
「……津上さんに戦わせて僕が何もしないなんて有り得ません、津上さんは本当は戦う事なんかないんだ、戦うのは、僕の仕事なのにあの人は、だから僕は津上さんを置いて退却なんて、絶対に出来ません!」
スネークオルフェノクの説得にも、G3‐Xは一歩も退く様子を見せない。この男がこの状態になってしまえば、人の話など聞かないだろう事は、付き合いの短い海堂にも容易に推察出来た。
その間に、上空の状況は変わっていた。
王の二本の腕と背中の触手のようなものからは、暗い紫に光る球状のエネルギーが次々に放出され、ゆるりと見えるのに実際には驚くべきスピードを帯びて、四方に放り散らかされている。ファイズもアギトも、眼前に迫るそれを捌き躱すので精一杯の様子だった。
やがて、曲刀で斬り捌いたエネルギー弾のすぐ後方に控えていたもう一発を避けきれずに食らい、更に、いつの間にか上方から迫っていた触手の一本に脳天から叩き付けられて、アギトがトルネイダーから振り落とされた。
「津上!」
巧の声が響いたが、ファイズにも助けに行くような余裕はない。
吊っていた糸が切れたように落下を始めたアギトを、自律飛行を続けていたトルネイダーが受け止め、そのままG3‐Xと海堂、赤い蟷螂が揉める地点まで下降する。
アギトの変身が解けその姿が翔一へと戻ると同時に、トルネイダーもただのバイクに戻り、横転した。
緩く地面に叩き付けられた翔一に駆け寄り、赤い蟷螂が、取り出した一枚のカードを、二本の鎌を組み上げた弓の持ち手の部分に取り付けた、ベルトのバックルのスリットに滑らせた。
『Recover』
音声が響くと、雪が降りしきるようにふわりと緑の淡い光が弓から零れ落ちて、赤い蟷螂の眼下の翔一に吸い込まれた。
「おいショーイチ君、大丈夫か! しっかりしろ!」
「大丈夫……です……」
ようやく目を開けた翔一を見下ろして、G3‐Xは握りしめた拳を、微かに震わせていた。呻くように、マスク越しにくぐもった声が漏れる。
「津上さん……僕は、戦います。理由なんかどうだっていいんだ、君がそんなになって、僕が戦わないのは、どう考えてもおかしい」
「駄目、ですって……」
「君は本当は、戦う人じゃないんだ。君の手は、命を育てて、美味しい料理を作って、誰かを笑顔にする手です。それなのに僕はアギトだからって関係のない君に頼って、それで自分は、ただの人間だから、何もしないで尻尾を巻いて逃げろっていうんですか! 君は僕に、そんな卑怯者になれって言うんですか!」
「……氷川、さん」
ようやく顔を上げられるようになったのか、翔一は痛みに顔を歪めながらも、G3‐Xを見て、緩く何度か首を振った。
「……分かりました、氷川さんの、気の済むように、してください。どうせ何言っても、聞かない、だろうし……氷川誠は、一度も逃げた事がない男、でしたっけ? ここで逃げたら、折角の、記録が……途切れちゃいますからね……」
「おいショーイチ君、相手はあれだぞ! 逃げた事ないにも限度ってもんがあんだろ!」
「大丈夫ですよ、氷川さんは、強い人……ですもの。凄いんですから……すいません海堂さん、手、貸してくれますか」
姿を人の姿に戻した海堂が、翔一に肩を貸して助け起こしながら、思わず悪態をつく。
「おい黙ってないで何とか言え、えーと、相川? この馬鹿共話にならん!」
「……放っておけ、なるようになるだろう……それに」
言葉を切って、相川と呼ばれた赤い蟷螂はG3‐Xを見つめると、王へと視線を移した。
「人間が思いの力で起こす奇跡というやつを、一番信じたいのは、多分俺だからな」
「……あー、もう、馬鹿野郎共が! 俺様はもう知らん、どうなったって知ったこっちゃねえぞ!」
言い捨てて海堂は憤然と、翔一を肩に担いでGトレーラーに向かい歩きだした。
「お前に、あの高さに居る王を攻撃できるのか」
「心配は無用です。何せこれは、天才が作ったんだ、抜かりはありません」
赤い蟷螂の疑問に答えると、G3‐Xは左手に携行していたスコーピオンのスコープを外し、スコープと銃身をそれぞれケルベロスにセット。後部から弾頭を取り出すと、銃頭に取り付けた。
「まずはあの攻撃をやめさせる事だ、後は乾に任せればいい。俺が奴の動きを止めたらそれを撃て。しくじるなよ」
「あなたは、どうやってあそこまで?」
質問には答えず、赤い蟷螂は取り出したカードを先程と同様に弓の持ち手のスリットに滑らせた。
『Float』
音声が響いて、カードは淡い緑の光となり蟷螂の胸部に吸い込まれる。すると赤い蟷螂の体は、重力をなくしたように、ふわりと浮かび上がり始めた。
「……な」
今まで様々に理解しがたい事象とは関わってきたが、目の前の光景はまるで魔法だ。
思わず唖然として見守るが、我に返ってG3‐Xは、GXランチャーを肩に担ぎ上げ、スコープを覗き構えた。
***
上空でカリスは、更にカードを一枚ラウズする。
『Refrect』
モスアンデッドの発揮していた、全身に纏った鱗粉で攻撃を弾き返す能力が発動する。王の攻撃の前では気休めにもならない可能性もあるが、使わないよりは念の為にでも使っておいた方がいいだろうと思われた。
行く手を遮るエネルギー弾をラウザーで捌き、まずはファイズを目指す。弾かれた弾の飛沫はカリスを襲うが、リフレクトの鱗粉に阻まれ、装甲にダメージを与える事はない。
「津上は!」
「恐らく無事だ、だが戦うのは無理だ」
エネルギー弾を避けつつ脇に抱えたファイズブラスターから弾丸を放ち続けているファイズは、振り向かずにカリスに呼び掛ける。
「今から奴の動きを止める。弾が止んだらお前がとどめを刺せるように、準備をしろ」
「言い方が気に食わねぇが……贅沢言ってらんねぇな、いいぜ、乗ってやる! だが、あいつは何だ!」
忙しく動き回りながらファイズが問い掛けたのは、地上に待機するG3‐Xの事に相違ないだろう。
「あいつらがサボらずに仕事をこなせば問題ない。距離はある、お前が片を付けたら即座に封印が為されれば、な」
カリスはちらと上を見上げ、淡々と答えた。三体のアンノウンは、ひたすらに出番を待ち、沈黙を守っている。
「おいこら、下で何してんのかと思えば、そんな不安要素残してんじゃねえよ!」
「津上のお墨付きだ、何かあるんだろう。それに万一失敗したなら、俺があいつを始末すれば済む」
「怖い事言ってんなよ!」
「失敗しなければいい」
そりゃそうだけどよ、と独りごちて、ファイズは攻撃の途切れた合間に右の踝にポインターをセットする。
「腹を括れ、行くぞ、見誤るな」
言うとカリスは、いつの間にか取り出したカードをラウズする。
『Bio』
カードの力がエレメントに変換されカリスに吸収されるや、構えたラウザーから幾筋もの蔦が生え、王に向かい走るように伸びた。
蔦は王の、未だ穴の塞がらない胴に巻き付き、その体を絡め取った。これが王をそう長くは押さえられない事は良く分かっている。タイミングを見誤る者がいないか、それが成否を分ける総てだった。
なまじな刃物は跳ね返す硬度を持った蔦に、蒼く炎がぽつぽつと灯る。じき切れる、その刹那に、地上から飛来した弾頭が王めがけ着弾し、赤く焔を上げて激しく空気を震わせた。
『Exceed Charge』
爆風に煽られて、体勢を崩し吹き飛ばされるカリスの耳に、その音声はしっかりと届き響いた。
王の動きは止まり、飛来するエネルギー弾も絶えた。この一瞬、これ以上ないタイミングだったろう。やや上空、王の頭の上程に移動していたファイズが、動いた。
「アンノウン共、頼んだぜ!」
助走をつけるための地面はない。背中の飛行ユニットから大量の煙を巻き上げてファイズは、王に向かい飛んだ。
右足のポインターから放たれたポインティングマーカーが円錐形の光に展開し、王を捕捉する。
王を押さえる木場はもういない、その体を砕くのに迷う要素は、何一つない。
「やあああぁぁぁーっ!」
ロケット弾は王の体を砕く程ではないものの、十分な威力をもってダメージを与えていたようだった。不意を突かれた王がマーカーの拘束を振り切る前に、クリムゾンスマッシュの爪先が王を捕えた。
上空から大地に響きわたり震わせるような、低い低い雄叫びが響いた。爪先は届いたものの、王の抵抗たるや凄まじく、フォトンブラッドへと変換され体内を焼き尽くす、次のシークエンスに移る事が出来ない。それどころか、気を抜けば今にも弾き返される。
「お前なんかに、お前、なんかに、負けてたまるか、ってんだよ!」
足先に、今にも弾き飛ばされそうな強い反発を食らいながら、ファイズが叫ぶ。円錐のポインティングマーカーは、より強く発光し、輝きを増した。
「うおおおおぉぉ!」
響いた叫び声が、誰の為に、何の為に上がったのかを知る者は、声を上げた巧本人を含め、誰もいないだろう。過去の悔恨も痛みも、未来への期待も不安も、現在の激情も、全ては混ざり合って、区切り線を引くことなど出来はしない。
ふっと、ファイズの姿が掻き消えると、数秒の後にはその姿は王の背後で、紅のフォトンブラッドからファイズへと再構成される。
王の体を突き抜けて、Φの形したフォトンブラッドの残滓が灼いた。刹那、上空のアンノウン達が動いた。
王に向かい翳された六の手は強い光を放ち、その光は、灰と化して崩折れようとする王の体を包んだ。
光の壁の中で蒼い炎が燃え盛って、壁を崩そうとするが、光の球は徐々に圧縮され小さくなり、白い鳥の翳した箱へと吸い込まれた。箱の蓋が閉じられると、もう辺りに光はなく、黄味がかった厚い雲に覆われた夜空と、無惨に抉られた流星塾跡地だけが、音もなく広がり残された。
アンノウン達は何も語る事はなく、東の方角へと飛び去っていく。
「終わった……か……」
呟きが漏れる。背中の飛行ユニットからの噴射が唐突に止み、ファイズの体は重力に従って徐々にスピードを増し、地上へと引き寄せられ吸い込まれていく。
ファイズの装甲はその赤い光を失って黒く戻り、その装甲すら分解され姿が乾巧のものへと戻る。
落下の速度を上げた巧を受け止めたカリスは、ふわりと一度浮かぶと、ゆっくりとした速度で、Gトレーラーが待つ地上へと降りていった。
***
「尾室さん、他の状況は」
赤い蟷螂が地に降り立ち、力を使い果たしたのか意識を失った巧はGトレーラーに収容された。一度帰還し装甲を脱がないままで、まず氷川が口にしたのはその言葉だった。
尾室はやや顔を顰め口の両端を下げると、一つ頷いた。
「都内のオルフェノクは徐々に鎮圧されつつあります。ギルスやアンノウン、見たことのないプロテクターの三人組が、各地のオルフェノクを倒して回ってるようで。本部から、合流できる者は入間の空自駐屯地に向かうよう指令が来ています」
「入間……?」
「北條さんの事ですから、何か掴んだのだとは思いますが。河野さんが伝えたあの伝言じゃないですか? 鉄の船がどうたら」
「……本気で空からばら撒くつもりかよ、狂ってんな」
翔一を運んで、自身も成り行き上仕方なくGトレーラーに乗り込んでいた海堂が、忌々しそうに言葉を吐き出して苦い顔をした。
「何がばら撒かれるんですか」
「多分な、薔薇、青い薔薇だよ。ああ、ショーイチ君が寝てて良かったな、場が凍らなくてよ」
「薔薇……って、どうしてそんな物を」
心底不思議そうな氷川の声に、海堂は大きな身振りで肩を竦めてみせた。
「あいつらの発想なんて俺様に分かるかよ。ただ確かな事は一つ。オルフェノクが触っても何も起きねぇけど、アギトが触ったら燃えた。人間が触ったら何が起きるんだかは、分からねぇし想像もしたくねぇ」
「人間が触ったら……まさか」
「奴らの狙いから考えりゃあ、触っただけでオルフェノクにするか灰にする、そんなとこなんじゃねぇのか」
尾室とG3‐Xは顔を見合わせる。尾室の目は、驚愕に見開かれていた。
「入間だな。氷川とか言ったか、お前はまだ動けるか」
やはり巧を運んだ成り行きで場に居合わせていた、赤い蟷螂だった男が口を開いた。今はトレンチコートの青年の姿をしている。
「バッテリーは交換しましたから、弾薬を補給して先行するつもりです」
「俺は先に行く。そいつらの事は頼んだ」
低い声で平坦な口調で言うと青年は踵を返し、出入口へと歩き去っていった。
彼からは事情をよく聞かなければいけないとは思っていたものの、実際に相対すると、どこから出ているのか分からない正体不明の迫力に気圧される。不思議な青年だった。氷川は、まだ彼の名前すら知らない。
尾室が本部へと通信を入れる声が響く。青い薔薇の事を報告するようだった。自分も為すべき事を為さなければならない。装備を整える為、氷川もトレーラー後部格納庫へと歩き出した。
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