ワンドロ03 メイド服(執事服)

 王都のマルシェは今日も大賑わいだが、街の様子や道行く人はそれとは何か別の賑わいと期待感を薄く孕んでいて、何やら国旗を軒先に飾り付ける家や店があったり、王都民と思しき人々が誰も彼もわくわくした様子で歩いていたりと、王都のマルシェの大繁盛だけではない何かが起こる予感があった。世界樹の国の事情にはあまり詳しくないマジョラムは、一体何があるのだろうと思いつつも日々の忙しさに紛れてランチやユーカリについ事情を聞きそびれてしまっていたのだけれども。
 そんな中で閉店の後片付けが終わった後、ランチが改まった様子で全員を集めた。集まった六人の前には、ランチとその横に何故かハンガーラックに吊り下げられた様々なデザインの服だった。
「えへん。実は明日は、この国の王様のお誕生日なんだ。だから王都は街中を挙げてお祝いをするから、明日はすごく忙しくなると思うけどみんなで力を合わせて頑張ろう!」
 なるほど、そういう事だったのか。合点のいったマジョラムは、他のシェフと共に頷いた。しかし、ランチの横の服は一体何だろう。
「ランチ、その服は何?」
 マジョラムよりも先にフェンネルが服を指差して疑問を口にした。フェンネルに目線を移したランチはにっこり笑って胸を張り、いわゆるドヤ顔をしてみせた。
「ふふふ、これはね、王様のおめでたい日だからやっぱり王宮が運営してる王都のマルシェとしても何か特別な事をしなくっちゃなぁと思って用意しました! みんなでこの中から衣装を決めてもらって、明日一日はその服をマルシェの制服にします!」
 ふふん、と鼻息の音が聞こえてきそうなランチの得意げな顔。多分シェフたちをびっくりさせようと何日もかけて様々な衣装を選んできたのだろう。その苦労には頭が下がるがファッションには一家言あるマジョラムは、それならそれで候補の服を選ぶ段階から声をかけてほしかったという感想が出て来る。
「ええ~、俺様なんか襟が付いてる服とか首が痒くなっちまってよぉ、苦手なんだよな~」
 ハンガーラックにかかった男物の服をざっと見てブーケガルニがぼやく。確かにブーケガルニには着付けないようなかっちりとした服が多い。統一感のある制服にするなら最低三人分は確保する必要があるし、このマルシェは王宮の主催だから普段の魔王コスプレよりも遥かに相応しい服だろう。
「あはは……明日一日だけだから、ちょっとだけ我慢して、ねっ? フェンネルとリンドウはこの中ならどれがいい?」
「俺は特に希望はないが……こういう事はフェンネルの方が見る目があるだろう」
「そうだね……これかな? いかにも王宮の給仕っぽくていいでしょ」
 そう言いながらフェンネルが選んでみせたのは格式めいたデザインのタキシードに蝶ネクタイ。ブーケガルニが一番苦手そうな服装だ。
「えっ……そ、それか? それを選んじまうのか? うあ~明日は地獄だ~~~!!」
「ちょっと着崩すぐらいならいいから、明日一日頑張ろ、ねっ?」
 頭を抱えるブーケガルニにすかさずランチがフォローを入れる。明日は服に着られたブーケガルニがぎこちない動きで客寄せをするのだろう様が容易に浮かぶ。
 その横で女性服を見ていたユーカリが、中から一着抜き出して広げてみせた。
「男子の方がそんな感じなら、女子はこんなのどうですか~? みんなかわいくなりますよ~~」
 そう言いながらユーカリが見せた服は、王宮に仕えているメイドが着ていそうないわゆるメイド服、ではなかった。エプロンのフリルは過剰に大きくふわふわになり、スカート丈が短い。メイド服を若い女性向けにアレンジしたものらしかった。マジョラムは好みのファッションではなかったため目にしたことはあるもののすっかり存在を忘れていたが、そういうファッションは確かにあるし、王都のカフェなどではこういう制服のところも少なくない。
 それは分かる。だけど。これを、あたしが……? 着る……?
 想像が追いつかなかった。この服に合わせるには一体どういうメイクにすればいいのか、髪型はまとめ髪にした方がいいのか、そもそも趣味ではないしあまり似合わないだろうし着たくないけれども、ランチの選んできた服は気合を入れた割には大人しめの無難なデザインが多いから他の選択肢も似たり寄ったりだ。
「あの……スカート丈が短すぎではありませんか? ミツバが着るにはちょっとはしたないです~!」
「大丈夫ですよ、ミツバちゃんもきっととってもかわいくなります! 太ももまである長い靴下も一緒に履きますからとってもかわいくなるんですよ、うふふ~! ミツバちゃんならタイツにしちゃってもかわいいですし、ピンクのリボンも首に付けたりして、ああ~早く着せてみたい!」
「ユーあんた、完全に好みで選んだわね……」
 うっとりした表情で想像を巡らせるユーカリにはマジョラムのツッコミは届かない。こうなれば反対派を増やすしかない。となればターゲットは……
「ランチ、もちろんランチも明日はこれ着るんだよね?」
 問いかけると、ランチは面白いほど間の抜けた顔をしてえっ……と戸惑いの声を上げた。
「全員参加だもんね? これ、着るよね?」
「マジョラム、目が据わってる……怖いよぉ~」
「ランチが着ないならあたしも着ないからね! 責任持って着ること!」
「ユーカリの選んだ他にも着たいやつがあったら選んでいいよ?」
「どれも黒! フリフリのスカート! デザインあんまり変わらない! なんで全部黒なの、冠婚葬祭!?」
「いや~、制服っていったらやっぱり黒かなって……」
「カフェとかベーカリーの店員の制服は黒だけじゃないでしょ! もっとアガる色あったでしょ!」
「……すいません」
 すっかりしょんぼりしてしまったランチを前にしてはマジョラムもそれ以上怒れず、他に希望もない以上ユーカリの選んだものに乗るしかないと覚悟を決めるしかなかった。明日のメイクや髪型を思うと憂鬱だが、その代わりランチのメイクや髪型もバッチリ決めさせてもらおうと密かな決意を固めた。
「女の子は大変だねぇ……」
「よく分からんが、並々ならぬこだわりが各人にあるのだな……」
 早々に衣装の決まった男性陣は、喧々囂々を遠く眺めて極力近寄らないようにしようと各自思ったのだった。

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