ワンドロ06 正座・リンドウ

「で、だ……どうしてこうして座らされているか分かっているな? 二人とも」
 溜息を吐いたリンドウの眼下には、床の上に正座したブーケガルニとランチが小さく肩を竦めて並んでいて、二人とも小さく縦に首を振った。この正座はサムライの国から伝わる文化の一つで、襟を正すべき時(それには反省しなければならない時も入っている)にする格好だ。ミツバに教えてもらったことがありこの状況にふさわしいとリンドウが二人を座らせた。
「俺様が、食材の芋をお腹が空いてつい焼いて食べてしまいました」
「わたしもお腹が空いていたのでそれがキッチンカーの食材かどうか確かめもせずに一緒に食べました……」
 相当しゅんと小さくなっている二人だが、なおもリンドウの追及は止まない。帳簿を広げ、当該ページを開いてばんと叩いてみせる。
「この日の赤字、これはどういう事だ?」
「えっと……その…………食べ終わってから食材だった事に気づいて、足りないとまずいと思って……ゴーマン商事から買い直しました」
 気まずそうに消え入りそうな声でランチが告げた。そもそもの事の起こりは昨日、他のメンバーが王宮の仕事の手伝いに出払ってしまいランチとブーケガルニの二人が留守番としてマルシェに残ったところから始まる。隠蔽工作が行われたためその日は何事もなく終わったが、次の日帳簿を整理したリンドウが赤字に目を見張ることになり発覚した。
「そもそもたかだか二人で芋を食べただけでこんなに赤字になるわけはないんだが、どういう事情なんだ?」
「それがよ~……掃除で集まった落ち葉で焚き火して芋焼いてたら広場を通りかかった人がいっぱい集まっちまって……だってよ、かわいそうだろ? 匂いだけ嗅がして食べさせないなんてよ、そんなのシェフの名折れだぜ」
「シェフがどうのというならちゃんと商売をしろ! 慈善事業ではないんだぞ! そもそも賄い以外で店の食材に手を付けるな!」
「ひっ!」
 ブーケガルニの物言いに堪忍袋の尾が切れたのかとうとうリンドウが声を荒げてしまい、その声に怯えてランチが肩をびくつかせた。
「す……すまんランチ、声が大きすぎたな……しかし二人にはしっかりと反省してほしい」
 自分の怒っている顔が怖すぎるというのはリンドウにも自覚がある。ランチの様子に一瞬心が揺れたのかリンドウは眉根を緩めたが、それもほんの少しの間の事ですぐに表情を引き締め二人に向き直った。
「この王都のマルシェは、王子様から拝命した大切な使命だ。おいしい料理で世界中の人に笑顔になってもらう、確かにそれはとても大切な事だと理解している。だが俺たちはボランティアではない、王宮から依頼された仕事として引き受けて対価も支払ってもらっている、それに責任を持つのは当然の事だろう?」
「うん……リンドウの言う通りだよ……本当は私が管理者なんだから一番しっかりしなきゃいけなかったのに、ごめんね……」
「俺様だって店の魚に勝手に手を付けられたら怒るもんな……もう二度とは繰り返さねえって男の約束するぜ……」
 ブーケガルニとランチの二人はすっかり俯いて、自らの行いを振り返っているようだった。これだけ反省すればもう再犯はないだろうが、説教だけで終わらせては示しがつかないとリンドウは考えていた。
 そこで、ユーカリ・フェンネル・マジョラム・ミツバも呼んで五者で二人の処罰を相談することにした。
 呼ばれたから来たもののユーカリは、もう反省してるみたいですから~と罰を与えるのには乗り気ではない様子だったが、他の三人は違った。
「そうだなぁ、ランチは、一日中なんでも僕の言う事を聞くっていうのはどうかな? 多分とっても罰になると思うんだ」
「じゃあこっちのバカはあたしの下僕として一日働かせよーっと! しっかり反省させたげるから覚悟してよね、ニヒヒッ」
「ずっ、ずるいですフェンネルさん~!!! ラッ、ランチさんを一日独り占めできるんだったらミツバが!!」
 フェンネルとマジョラムとミツバは目が本気すぎて、このままではあまりにもランチとブーケガルニが気の毒なのではないかとリンドウには哀れに思えたので、何か代案を出さなければならない。反省になって、尚且つフェンネルとマジョラムとミツバが譲歩できるもの……。
「それぞれの意見は分かったが、一日丸々というのは他の業務にも支障が出る。そこで、俺たち一人一枚ずつお手伝い券を持って、二人に仕事を何でも一回だけ手伝ってもらえる、というのはどうだろう?」
 リンドウのその案を、ユーカリは即座に賛成してその勢いに押されてフェンネルとマジョラムも渋々了承したのだが、ブーケガルニとランチも合わせた六人は、発想がおじいちゃんくさすぎると思ったそうな。

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