ワンドロ20 ユーカリ
昼下がりの休憩時間、オルナイの街の広場の一角でまんぷくマルシェの女子メンバー達が集まり紅茶片手にお菓子をつまみながら休憩時間を利用してのプチ女子会を催していた。ユーカリ、ネリネ、マジョラム、ミツバ、ランチ、そして何故か居心地の悪そうなシオンの六人は四方八方に広がる話題で大いに盛り上がっている。
「そういえばさ、ユーってかわいいのに色っぽい話が全然ないみたいだけど、どういうタイプが好みなの?」
ちょうど話題が途切れてみんなが紅茶を啜った後に飛び出したマジョラムの疑問に、ユーカリは首を傾げて考え込んだ。
「タイプ……タイプ、ですか~? うーん、えーっと……」
「あひ、ユーカリしゃんは理想の男性がいないんですか……?」
「理想と言われると……特にはないですね~」
答えたユーカリは尚も首を傾げて考え込んでいる。ユーカリに熱い視線を送る数多い常連の男性はこれを知ったらさぞ落胆するか、自分にもチャンスがあると捉えるかのどちらかだろう。
「あはは、ユーカリは昔っからそうだったよな。修行時代も同期と言わず先輩後輩と言わず男はほぼみんな惚れてたのに、本人が全然気付かないし誰かを好きになるとかそういうのもなかったもんな」
「わたしは皆さん大好きでしたけど……そういうことではないですものね~……それは分かるんですけど」
溜息をついて考え込んでしまったユーカリを見てマジョラムが再び口を開く。
「あー……あたしの聞き方が悪かったかも。例えば、結婚相手に選ぶならユーは相手にどんな条件を付ける?」
「条件、ですか……そうですね~、元気で健康で、ご飯をいっぱい食べてくれる人がいいですかね~」
「それあまりにも普通すぎない? 該当する人多すぎでしょ」
すかさず繰り出されたマジョラムのツッコミにランチは苦笑した。ユーカリの「いっぱい食べる」の量を考えれば常軌を逸しているのは明らかだ。その条件を満たせる男性はそう多くない……というよりはほとんどいないだろう。
「沢山食べるといえば、例えばブーケガルニしゃんとかですか……? 元気で健康ですし」
「えっ? ブーケガルニさんはすごく少食じゃないですか~、私の食事に付き合わせてしまうのはかわいそうです」
「ユーあんたそれ、本気で言ってんの……? あいつ相当の大食いだよ? まああいつはそれ以前の問題でユーには近付けたくないけど」
「えっ、そうなんですか~!? 困りましたね~、それじゃ私の求める男性はそんなに簡単には見つかりそうにないんですね……」
マジョラムの言葉を受けたユーカリはしょんぼりとしてしまい、場に沈黙が落ちる。どうにかしたいとは思うもののしかしランチにも差し当たって解決策は思い浮かばなかった。各地の大食いコンテストを回ってユーカリのお婿さんにふさわしい男性を探すくらいの事しか思い付かないが、本当に結婚相手として考えるなら人間性や仕事、収入など様々な要素を考えなければならない。大食いができればいいというものでもないだろう。
しょんぼりしたユーカリの周りで五人が五人とも解決策を考え込んで黙り込んでしまう。話題を変えるにもこの問題をこのままにはしておけない思いの方が強かった。
「……そういえば、ブーケガルニよりもディルさんの方が大食いじゃない? 前ブーケガルニから聞いたような……」
はたと気付いたランチが口に出すと、ユーカリを除いた他の四人が顔を上げ、それだ、という表情をしてみせる。
「普段の賄いも多めの量にしてるけどちょっと物足りなさそうだもんね、これは一度限界を調べてみる価値アリかも?」
「ミツバもブーケガルニさんからディルさんはすっごい大食いだって聞いたことあります! やっぱり運命の相手は意外に近い場所にいるものなんですね~!」
話は纏まり、昼の女子会改め円卓会議はディルの胃袋の上限を調査する事を決めたのだった。その為には大量の料理を用意しなければならない。ランチが密かに食材を発注し、男子達を一斉に買い出しに出してディルの見ていない隙に女子が総出で料理を用意する。女子会が終わってしばらしくたらユーカリの落ち込みはけろりと治っていつもの明るく元気なユーカリに戻っていたのだが、ディルの為に大量のパンを用意するユーカリの姿はいつもよりうきうきした様子にも見えた。
そして男子達が戻ってくる頃、準備はすっかり整っていた。キッチンカーの前には料理の山積した大きな机と椅子、その側に女子達が勢揃いしている様子を見て男達は何事かとぽかんとしていた。
「ディルさん、こっちに来てください」
「……えっ、自分ですか?」
ランチが手招いてディルを椅子に座らせる。訳も分からないまま呆けた顔のディルは椅子に腰掛け、右を見て左を見た。
「お願いがあるんですけど、今からお腹一杯になるまで食べ続けてみてくれませんか? 料理はまだまだ沢山用意してありますから」
「えっ、ええっ!? なぜそのような事を……?」
「まあまあ、いいですから」
更に困惑するディルにマジョラムがナイフとフォークを握らせると、
「吾輩の分はないのかのー!? ディルだけずるいではないか!」
「僕たちだってお腹空いたんだけど……」
「まあまあ、みんなの分はちゃんと別に賄いを用意してるから。あっそうだ、荷物片付けてきてもらってもいいかな?」
チューベローズとフェンネルが不満を口に出すが、リンドウはランチの言葉を聞くと地面に降ろしていた荷物を持ち上げた。
「……何やら納得できない点もあるが、ランチがそう言うのであればきっと何か考えがあるのだろう」
「ん~、なんでディルだけそんな豪華な食事なんだか分かんねえけど、まだ仕事もあるしな~、まあいっか!」
リンドウの動きにブーケガルニも同調し荷物を持って歩いて行く。それを見たフェンネルも聞こえるような溜息を残して続き、チューベローズはディルの馬鹿者! と言い残して飛び去っていった。キキョウは荷物も持たずに全然見当違いの方向に歩いて行くが今は構っている余裕がない。これから女子総出でディルの給仕をするのだ。
「じゃあディルさん、お願いしますね、お腹一杯になったら言ってください」
「わ……分かりました、それでは遠慮なく」
そしてディルの胃袋の限界を調べる会は幕を開けた、のだが。一時間後。
「嘘……あれだけの量を全部、食べちゃった……?」
呆然とした声で呟くマジョラムは明らかにドン引きしている。ディルはといえばまだ涼しい顔で次の料理を待っているが、用意した料理はもう底をついた。そこらの大食いチャンピオンなど問題にならない量だ。
「ディ、ディルさん、お腹はまだ、一杯になりません……?」
「うーん、そうですな、六分目といったところですか」
「ろっ……ろく……」
「ミツバ様!」
泡を吹いて倒れたミツバをシオンが後ろから支える。この常軌を逸した食べっぷりを見れば倒れたくなる気持ちも分かる。
「……困りましたね~、いくらたくさん食べる人がいいとはいっても、毎日この量は用意できませんし……食費だけですぐに破産しちゃいそうです~」
「あはは……そうだね」
ユーカリの言葉にランチは苦笑で答えた。帯に短し襷に長し、ユーカリの運命の相手探しは前途多難のようだった。
コメントを送る