ワンドロ24 ○○ごっこ

 レヴンで営業中のまんぷくマルシェは今日は休日をとり閉店している。女の子達はブーケガルニの弟妹達と連れ立って海水浴へと出掛けていった。男性陣も同行しても良かったのだが、女性陣の中でいつもはミツバから片時も離れないシオンが何故か一人残ると言い出したのでシオン一人を残すのは可哀想だろうとリンドウが言い出し、そんな事より昼寝していたいキキョウとあまり日焼けしたくないというフェンネルも同行をやめて、(盗みなど起こらない平和な島ではあるが)マルシェの機材や食材に万一の事があってはと他の面々も残る事になったのだった。
 しかし空いた時間を帳簿の整理に当てて作業しているリンドウの他の一同は、明らかに暇を持て余していた。
「ヒマだぜ~! 女どもがいないんじゃどっかに探検に行くってわけにもいかねぇしなぁ~」
「ハハハ、いつもは働き詰めですしたまにはのんびりするのも良いではないですか。まあ確かに少し運動したくはありますが……」
 砂浜に寝転んだブーケガルニのぼやきに隣に同じく寝転んだディルが返す。のんびりとした時間の流れは遅く、昼飯時まではまだまだ間があるからまだ昼食の支度をするような時間でもない。何もする事がなかった。
「あっ、あのっ、それならぼく、やってみたい遊びがあるっす!」
 話を近くで聞いていたバジルが声を上げ、何事かとオレガノやシオンも集まってくる。
「バジル、やってみたい遊びってなんだ?」
「せっかく魔王のブーケガルニさんがいるっすから、勇者ごっこしたいっす! 憧れだったっす~!」
「おっ、面白そうじゃねぇか! 配役はどうすっかな、俺様が魔王として……よし、ディルは俺の部下だな!」
 バジルの提案にブーケガルニがにっかりと笑顔を見せ、ばっと飛び起きる。同じく起き上がったディルは、多少の困惑は見せたもののいいですよとあっさり提案に乗った。
「じゃあオレが魔法使いでバジルが勇者かな? バジル、それでいい?」
 続いたオレガノの言葉に、バジルはぱっと明るい笑顔を見せる。
「えっ、ほんとうにいいっすか? ぼくが勇者なんてそんな……」
「だってオレはウィッチだから勇者は似合わないから。バジルがやってよ」
「わっ、分かったっす! 精一杯頑張るっす!」
 微笑んだオレガノにバジルは意気込んで拳を握ってみせる。何も言い出さないシオンを見たブーケガルニが、いい事を閃いたと言いたげな顔を向けた。
「ちょうどいい、囚われの姫役はシオンだ!」
「えっ、わ、わたくしですか……? というかいつの間に入る事に……」
「やー、丁度女が残っててラッキーだったぜ。おーい、リンドウとフェンネルもやるだろ~!?」
 ブーケガルニが声を掛けると、机に帳簿を広げたリンドウと立てた傘の下でチェアに寝そべったフェンネルがブーケガルニを見やった。
「悪いが今日中に帳簿の整理を済ませたいんだ、まだまだ残っていてな」
「日焼けしたくないって言ったでしょ。ここから出なくてもいいならやるよ」
「なんだよ、ノリ悪ぃな~! まいっか、よし、武器になりそうな枝とか探しに行くぞ~!」
 ブーケガルニの号令にバジル達は森の方へと走り出して行った。残ったシオンをフェンネルが不思議そうに見やる。
「君は行かないの?」
「わたくしは姫役ですので武器は必要ないかと……」
「フフ、それもそうだね。でもいいの? あんまり乗り気じゃないみたいだけど」
「そういうわけでは……勇者ごっこは昔よくしましたし楽しいです」
 シオンのその言葉にフェンネルは首を捻った。
「よくしたって、お姫様役? それとも男勝りだったとか?」
「まあ、そんな所です」
 言葉を切ってそれきりシオンは口を閉じたのでフェンネルも深く追及する事はせずに再び仰向けに寝そべって潮風を楽しむことにした。しばらくすると、森に入った一団が戻ってくる賑やかな声が近付いてきた。
「よーし、じゃあ始めっぞ! シオンはこっちな」
 戻ってきたブーケガルニがシオンを自分の近くまで呼び寄せる。森で拾ってきた長い枝とそこらにあったマントで装備を整えたバジルは枝の剣を構える。シオンに剣術を習い始めた効果もあってかなかなか様になった構えだった。
 いつもの格好のブーケガルニはにぃっと口の端を吊り上げて笑った。さすが魔王を自称するだけあってなかなかの役作りだとオレガノは感心した。
「フゥハハハハハ! 姫を助けたければ、この魔王ブーケガルニ様を倒してみせるがよい勇者どもよ! 果たして出来るかな!?」
 言いながらブーケガルニがシオンを左腕で抱き寄せた刹那。まさに一瞬の事だった。シオンはブーケガルニの左腕を両手で掴むと腰を落とし、見事な一本背負いを決めていた。空に浮かんだブーケガルニがどさりと勢いよく背中から砂浜に叩き付けられる。
「あだだっ、なっ、なんで姫が魔王を投げるんだよ~!?」
「……一国の姫たるもの護身術の一つや二つ使えても当たり前ではないですか?」
「それはそうかも知んねぇけえど勇者ごっこっつったろ~!? そういうリアルさは今はいいんだよ! 勇者より姫が活躍してどうすんだよ~!?」
「そうでした、すいませんブーケガルニさん。実はつい反射で……以後気を付けます」
 シオンが小さく頭を下げ、気を取り直したブーケガルニが先程と同じセリフとシオン姫を引き寄せる動作をもう一度繰り返す。同じく気を取り直したバジルがきっと魔王ブーケガルニを睨み付けた。
「ぼっ、ぼくたちは、負けないっす~! シオン姫、今お助けしますっす~!」
「フハハハ、まずは我が下僕を倒してその力を証明するがよい! 行けディル!」
「えっ、自分ですか? ブーケガルニ殿が戦うのでは?」
「魔王はラスボスだから最後なんだよ、ディルはあれだ、中ボスだ!」
「はぁ……」
 今一つ得心が行かない様子のディルがそれでもうぉー! と声を上げてバジルとオレガノへと向かっていく。
「よし、まずは魔法だ! クゴジ・リア!」
 オレガノが呪文を唱え魔法の光が辺りを照らす。するとディルの足元の砂がどういう訳かどんどん下へと落ちて行きディルの脚がとられ砂に埋まっていく。
「今だ勇者、行けーっ!」
「ありがとう魔法使い、行くっすよ~!」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください、本物の魔法はアリなんですか!? これでは自分が砂に埋まって戻ってこられなくなってしまいます!!」
 訴えも虚しくディルの身体はどんどん砂へと埋まっていき、その間にバジルの枝の剣がポカスカとディルの頭や肩を叩く。最終的に首まで埋まったところでようやくオレガノが呪文を解除した。
「こ……これは何の刑罰なのでしょうか……ウッ」
「やったっす~! 中ボスを倒したっす! 次は魔王の番っすよ~!」
 バジルとオレガノがディルの頭の横を駆け抜けていき、完全にスルーされたディルの涙声が虚しく響くが、バジルとオレガノの関心は既に魔王ブーケガルニへと移っていた。
「ククク、我が配下がディル一人と思ったか……今こそその力を見せる時が来たか……。そこのリンドウとフェンネルを倒した時我への道は開くであろう!」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっとブーケガルニ!?」
 突然ブーケガルニに役割を振られたリンドウとフェンネルは立ち上がるが、時既に遅しだった。バジルとオレガノの目線は完全に二人に定まっている。
「行くっすよ、魔王の手下~っ!」
「ケフ・ヨゼカ!」
 オレガノが牽制に放った魔法で吹かせた風がフェンネルのパラソルと机の上の帳簿を空に巻き上げる。
「おわーっ!! ちょ、帳簿を紛失してしまったら一大事になってしまうーっ!」
「ブーケガルニ……後で覚えてなよ」
「おわっ、痛いっ、うおおっ、やめてくれバジル~!」
 リンドウが慌てて帳簿を拾い集める間に後ろからバジルに襲われ、一切目が笑っていない笑顔でフェンネルが腹の底から絞り出したような怨嗟の声を放つ。
「やっぱこういうのは皆で遊んだ方が楽しいな~! ガハハハッ!」
 その様子を見ながら愉快そうに笑うブーケガルニは、その後フェンネルからきつい仕返しを受けたそうな。

 その夜、明日の準備も終わりキッチンカーに戻ってベッドに入ったバジルは昼間の事を思い出しているのか嬉しそうな笑顔だった。
「今日は楽しかったっすね~! また勇者ごっこやりたいっす!」
「僕はもうごめんだよ……でもまぁ、キミが楽しかったなら良かった、かな。やってみたかったって言ってたけど初めてだったの?」
 フェンネルの質問にバジルは軽く頷いて、穏やかな笑みを浮かべたまま瞼を閉じた。
「ぼく、遊び相手が双子の妹だったっすから、他の子の遊び相手になかなか入れてもらえなくて……」
「そうだろうね、男の子は男の子だけでできる遊びをしたがるしね」
「だから今日はほんと楽しかったっす。フェンネルさん、ありがとうっす……」
 もうしないよ、と言う言葉をフェンネルは口に出さなかった。思う様遊び尽くして心地よい疲れに包まれたバジルの穏やかな寝息が聞こえてきたからだった。

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