ワンドロ28 オニオン

 ルエラニの中心街に位置するある豪邸の門をオニオンは辞し、側に待たせていた車に乗り込んだ。側に寄り添うように飛んでいたジュリィは館の中でオニオンが館の主と商談をしている間からここに来るまでずっと無言だったが、オニオンが車のシートに腰を落ち着けるとようやく口を開いた。
「オニオンは、どうして兵器なんか売るジュリィ……」
「取り扱っている商品だからだ」
「そういう事が聞きたいんじゃないジュリィ、そんなもの売ったら争いの元になるジュリィよ……」
 ジュリィの言葉にもオニオンは身じろぎ一つせず静かだった。帽子のつばが目元を隠し表情は伺い知れない。
「安全保障という言葉を知らないのか。各国が均衡した武力を持って拮抗牽制しあう事で結果的に戦争が回避される。兵器というのはそういう使い方もある」
「でも、いざという時は使われて人を傷付けるジュリィよ? そんなものを売らなくても、ゴーマン商事はもう充分大きな会社ジュリィ」
「精霊に浮世の事を分かれという方が無理かもしれないが、大きな会社はそれだけ維持するのも大変だ。兵器売買は国を相手にしたビッグビジネスだ、その売上がなくなればどれ程の痛手があるか……お前には分からんか。だがもし兵器の取扱をやめたとしよう、今まで築き上げてきた各国上層部とのコネクションは失われるしそうなれば世界中に店を出すことなど難しくなってしまう。それに単純に兵器売買の部署で働いていた社員や関連会社や工場の者が路頭に迷う事になるぞ」
 言われてみれば、兵器売買に携わる人々はそれで生計を立てているのだ、世界有数の企業であるゴーマン商事との大口の取引が無くなれば立ち行かなくなる会社や工場もあるだろうし、部署を無くすとなれば社員も整理されるだろう。自分の言っている事があまりにも現実的ではないのはジュリィにも理解できた。
「そもそも、武器や兵器という利益の大きな商品を取り扱ったからゴーマン商事はここまで大きくなる事ができた、結果世界中に店を出す事もできた。私の選んでいる手段が納得できないというのならば今すぐ世界樹に帰るといい。居ても居なくてもどちらにしろどうせ大して役に立つわけでもない」
「帰らないジュリィ……ジュリィはずっとオニオンの側に居るって決めたジュリィよ」
「強情だな。居るなら居るで構わないがやり方には口出ししないでもらいたい」
 フロントシートの背凭れを見つめながらオニオンは静かな声で言い放った。運転手はおおよその事情を飲み込んでいるのでリアシートのオニオンの声には反応せず運転に専念している。
「オニオンの言う理屈も分かるジュリィ、でも……やっぱり武器なんかない方がいいジュリィよ」
「それは人というものそのもののあり方を否定する意見だな。闘争心は人に根付いた本能だ、私が売るのをやめたところで作る者がいなくなるわけではないし武器もこの世から消え去る事はないだろうな」
「でも、他の人がやってるから自分もやっていいって思ってたら、世界は変わらないジュリィよ!」
「例え武器がなくなっても人は拳で殴り合う事も言葉で人を傷付ける事もやめないだろう、そういう事を言っている」
「そんなの、悲しいジュリィよ……」
 しょんぼりと肩を落とすジュリィをオニオンはちらと上目で見やって、すぐに視線を前に戻した。
「だが、本質的に争うものなのに人は言葉を作り互いの気持ちを伝え分かろうとした。そこが面白いのだとは思わないか」
 そう呟いたオニオンの声が楽しげな色を帯びている気がして、やはりこの男は変わり者でよく分からないけれども、だからこそ面白いのかもしれない、オニオンの言う人間のように、そうジュリィは思った。

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