ワンドロ30 背比べ
広場では珍しく起きているキキョウとリンドウが二人でチラシ配りをしていたが、そこに通り掛かったランチは二人に声をかけるでもなく少し離れた場所から二人を見比べ、首を傾げ何か考え込んでいる様子だった。リンドウがランチの視線に気付きどうしたのかと首を捻る。
「どうしたランチ、何か用事か? それともどこか服装が乱れているだろうか……寝癖……はない筈だが」
「えっ、あっ、いや違うの、ただね、リンドウとキキョウさんって背の高さ同じ位に見えるけどどっちが高いのかなーって気になっちゃって……深い意味はないんだけど」
そのランチの言葉を聞いたキキョウは、ぎろりとランチを睨みつけるとチッと一つ舌打ちをした。
「てめぇの目は団子ででも出来てんのか。こいつがオレより背が高いわけがねぇだろうが」
「えっ……でも、同じ位に見えますけど……?」
「ブーツの底の分だけ高く見えてるだけだろうがよ、それがなかったらオレの方が高いに決まってんだろ」
言われてランチはリンドウの足元を見た。言われてみれば確かにソールが厚くしっかりとした(おそらくは雪国仕様の)ブーツを履いている。でも背が高く見えるほどではない気もしてますます首を捻る結果になってしまう。
「うーん、リンドウ、リンドウって背の高さどのくらいなの?」
「それが……学校を辞めてから長らく測っていなくてな、正確な数値が分からないんだ」
「そう言われるとますます気になる……よし、じゃあマルシェのみんなの健康診断をしよう!」
「は?」
唐突なランチの提案にリンドウはきょとんとしてキキョウはあんぐり口を開けた。突然何を言い出すのかこの女はと顔に書いてあるのが読み取れるような呆れ顔だった。
「よくよく考えてみたらみんなの健康管理も大事な事だし、必要だと思うんだよね!」
「言われてみれば確かにそうだが……」
「あっさり納得してんじゃねぇよ。オレにはどこも悪い所はねぇしそんなかったるい行事付き合ってらんねぇよ」
「健康管理も仕事の内ですよキキョウさん! 健康そうに見えてもどんな病気が隠れてるか分からないんですよ?」
ランチの言葉に溜息を一つつくと、キキョウは持っていたチラシをリンドウの手の中のチラシの上に重ね置き踵を返した。
「付き合ってらんねぇ……オレは寝る」
「あっちょっとキキョウさん! 仕事サボらないでください!」
立ち去るキキョウの後を追ってランチも駆け出し、ただでさえ知らない人に声をかけチラシを配るのが苦手なリンドウは配らなければならないチラシの量が倍増してしまいしばしの間項垂れた。
ランチは有言実行の女である。身体検査に必要な医者や測定道具、日取りと場所もキキョウが知らない内にすっかり手配を済ませていた。そんな事に付き合う気はなく見付からないように昼寝を極め込もうとしたのを見付かりディルに抱き抱えられ引きずってこられたのはある医院だった。
二つある診察室に男女で分かれて入る。女どもが胸がどうやらと何やら賑やかに騒いでいる声が漏れ聞こえてくるのがリンドウには刺激が強すぎるらしく反応を見るのは面白かったがそれ以外は面倒で仕方がない。病院側で用意された寝衣に着替えて体調についてのいくつかの質問を経た後に、胸を聴診されたり目や口の中や喉を見られて、身長と体重を測る。型通りの検診で特にこれといった面白さもなくただ退屈だった。だが、診断結果の紙を手にしたキキョウにはここではっきりさせておかなければならない事がある。
「おい、ちょっと見せろ」
「えっ、あっ兄弟子、返してください!」
自分の診断結果を見ていたリンドウから紙を取り上げ、身長の項目を見る。
「……」
キキョウは無言無表情のままリンドウに紙を返し、それ以降身長の件に関して触れる事は一切なかった。
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