ワンドロ33 折り紙・キキョウ
珍しくキキョウが起きていて手を動かし何かしているのを見かけて、何をしているのか興味を惹かれミツバは足を止めてキキョウの方へと近付いていき少し距離を置いて様子を観察し始めた。しばらく経つとキキョウの手が止まり、掌の上には白い折り鶴が乗っていた。
「わぁ、キキョウさん折り鶴が折れるんですか? ミツバも折り紙得意なんです! 一緒に折りましょう!」
折り紙は小さい頃からよく遊んでいたしかなりの種類の折り方は今でもきちんと覚えている。嬉しくなって駆け寄ると、ミツバを苦手にしている様子のあるキキョウは若干たじろいだものの、すぐに口を開いた。
「ただ暇潰しに折ってただけだしこれしか折れねぇよ。紙だってもうねぇし」
「じゃあ待っててください! ミツバ、自分のキッチンカーから折り紙取ってきますから!」
にっこり微笑むとキキョウの返事を待たずミツバは踵を返して駆け出していく。困った様子で憮然とした顔のキキョウが溜息をついた。
すぐに戻ってきたミツバの手には折り紙の包みが握られていて、何故かシオンが一緒に着いてきていた。
「キキョウさん、シオンちゃんも一緒に折り紙折っていいですか?」
「だからオレは鶴しか折れねぇしもう折ったからやらねぇよ。二人で折れ」
「そんな事言わないで、もう一個鶴折ってください、ね?」
にこりとミツバに微笑まれて、キキョウは返す言葉に詰まって黙り込み、苦々しい顔を作ると小さな声で分かったよと言い捨てた。お邪魔しますとシオンがミツバの隣に座り、傍から見れば関係性のよく分からない組み合わせの三人が黙々と折り紙を折り始めた。
さすが和菓子職人だけあって手先の細かい作業はお手の物といった様子のキキョウは短時間でパリッと美しい折り目の鶴を完成させてしまい手持ち無沙汰になる。それを見たミツバは折り紙の包みの中を覗き、一辺が一寸ほどしかない小さな折り紙を取り出してキキョウに渡した。
「キキョウさんならこの位の小さな鶴もきっと綺麗に折れちゃいます!」
「まだ折んのかよ……まあいいけどよ」
「くすくす、ミツバ知ってます! キキョウさんはお仕事サボってるからとってもお暇なんですよね!」
「……なんかそういう言われ方するとすげえ罪悪感湧いてくるな……」
苦りきりながらミツバから折り紙を受け取ったキキョウは小さな紙も細長い指先で器用に折っていく。赤紫の紙を出したミツバは紙を折り五角形を作っていた。
「ミツバ様は何を折ってらっしゃるのですか?」
「ふふ、秘密です。シオンちゃんは……分かりました、蛙さんですね」
「ご明答です、さすがミツバ様」
笑い合いながら和気藹々と折り紙を折っている様子は二人とも仲睦まじい少女らしいが、それなら自分はなんだとふと考えてそれ以上考えるのをキキョウはやめた。保護者なんて真っ平御免だがそうでなければ幼女趣味だ。どちらに転んでもぞっとしない。
「できました!」
キキョウが三つ目の鶴を半分ほど折った頃、楽しげなミツバの声が響いた。
「これは……桔梗の花ですね、素敵ですミツバ様」
見れば確かに赤紫の桔梗の花の形をした折り紙が出来上がっていて、素直に喜ぶのも大人げないし何より照れくさいような心持ちになりキキョウは目線を横に逸らした。
「これはキキョウさんに差し上げます、キキョウさんが折ってる小さい鶴と交換です」
「は? まぁいいけどよ……貰ってどうすりゃいいんだよ」
「お部屋に飾ってください」
「部屋ったってオレの部屋じゃねぇし……ぬいぐるみの次は折り紙かよ……あいつの部屋本人の見た目から想像できねぇ少女趣味になってくな……」
「リンドウさんだからいいんです、くすくす」
「何気に酷い扱いなのな……」
ミツバのリンドウの扱いに若干引きながらも手を動かしていたキキョウは小さい鶴を見事に完成させ、シオンの蛙も可愛らしい仕上がりになり、どっちも素敵ですとミツバは実に楽しそうに笑った。一人で家を離れシェフなどしていてもこういう所はまだまだ子供らしさが残っているのだなという感想がキキョウの中に浮かぶ。蛙と鶴はミツバに引き取られ、桔梗の花はキキョウの手に渡って折り紙会はお開きとなったのだった。
その夜、自室のサイドテーブルの上に無造作に置かれた折り紙を見て風流ですねとリンドウが頬を綻ばせた。かわいいものが好きというのは知っていたが本当に本格的な少女趣味なのではないかという疑惑が拭いきれず、その内ふわっとしたスカートとか履きたくならなけりゃいいけどなと内心だけでキキョウは思ったのだった。
コメントを送る