昼食前に済ませたいこと
現在まんぷくマルシェは南の島レヴンで営業中だった。常夏の南の島では痛みやすい和菓子は販売に適さないものが多いため、リンドウは食材の管理や帳簿の整理、買い出しや掃除などの裏方を忙しくこなしていた。洋菓子も痛みやすいものが多いが気温の高いレヴンでは冷たく甘いパフェ類が喜ばれ、キッチンカーの側に急増のカフェスペースを作りフェンネルとバジルは大わらわで製造にあたっていた。
食材置き場に使わせてもらっている小屋に小麦粉の袋を運び終えて、小屋の外に出てからふうと一息ついて作務衣の襟をぱたぱたとはだけてじっとり汗をかいた肌に風を送り込む。レヴンは暑いが空気はからりとして爽やかな空気だった。雲一つない蒼い空の下に広がる美しい海と彼方に伸びる白い砂浜が織りなす景観も素晴らしく人々は明朗快活、のんびりとした一日一日が穏やかに流れていく。ブーケガルニの言う通り素晴らしい島だと改めて思う。
今日船で届いた食材の整理は終わったが次は何をしようかと考えていると、起きたばかりなのかあくびをしながら歩いてくるキキョウが目に入った。
「おはようございます兄弟子」
「おはようさん。おい、朝飯はどこだ?」
「えっ、みんなずいぶん前に済ませてしまったのでもう片付けてしまいましたが……兄弟子は昼まで寝ているだろうと思っていたので……」
「あ? なんだと?」
ぎろりと睨み付けられ、思わずたじろいでしまう。きちんと朝に起きてこないキキョウに非があることは明らかなのだが、弟弟子であるリンドウがあまりあからさまに言うことはできないし、何よりメンバーの中で凄んだキキョウに怯まず何か言えるのはフェンネルかブーケガルニくらいのものだろう(そしてフェンネルはそういう事には首を突っ込みたがらないし、ブーケガルニはキキョウが起きてこない程度の事は気にもかけない)。
「まあいい、昼飯はまだか」
怯んだところにキキョウが突然質問を変えてきたので、咄嗟に対応できずに思わずぽかんとしてしまう。するとキキョウは再び不機嫌そうに眉を顰めた。
「てめぇのその耳は飾りか、昼飯はまだかって聞いてんだよ」
「あっ、ち、昼食……まだもうすこし先だと、思いますが……軽く何か作りますか?」
「いい。てめぇの飯はまずくはねぇが特別うまいわけでもねぇからな」
事実を言われてしまえば黙るしかなくなる。リンドウの賄いはまさに可もなく不可もなくといった出来栄えで、ランチやユーカリなどは気を使っているのか安心できる味と評する。よく言えばそうなのだろうか別の言い方をすれば普通の味だ。他のシェフ達のように病みつきになるような美味しさの料理など作れないし本業は和菓子なのでその必要もないと思ってもいる。
「はぁ、どうすっかな、昼飯まで寝直すか……」
「あのっ、それなら一緒に仕事を手伝っていただけませんか? 少し手が足りなくて……それとランチに言われた新メニューで少し相談したい事が……」
溜息をつき頭を掻きながら辺りを見回すキキョウに声をかけると、キキョウはリンドウに目線を戻した。そのまま目線を下ろしていき、胸元の辺りで目線を止めた。凝視されると気になってしまい緩めた襟を直そうと襟に手をかけようとした所で手首をキキョウに掴まれた。
「あ、あの……? 兄弟子……?」
リンドウの呼びかけには応えずキキョウは掴んだリンドウの手を顔に近付けて匂いを嗅ぐと、身体を倒してリンドウの胸元に頭を近付けぺろりと軽く舐めるとすぐに頭を上げた。
「んっ……あ、兄弟子、何を……っ」
「おめぇ、こんな真っ昼間から誘ってやがんのか」
「なっ、何の話ですか! そんな事するはずないでしょう!」
リンドウの反論には耳を貸さず、キキョウは空いた手を伸ばし額に汗で張り付いたリンドウの前髪を掻き上げた。
「オレが誘ってるっつったら誘ってんだよ、文句あっか」
「これは! さっきまで重い荷物を運んでいたからちょっと汗をかいてしまっただけで、たまたまです!」
「てめぇじゃ気付いてねぇかもしれねぇがな、襟元から昨日付けてやった跡が見えてんだよ。折角見えねぇように気ぃ使ってやったってのに……まぁそんな事ぁどうでもいい、どうしてくれんだ、これ」
言うとキキョウは手首を掴んだリンドウの手を自身の腰元まで下ろし触らせる。薄い布地の着流しの下からは高い気温で篭った熱とは別の熱さが感じられ、身の危険を感じたリンドウはキキョウの手を振り解いて後退ろうとするが一息早くキキョウが掴んだリンドウの手首を勢いよく引き、前にのめったリンドウの背中を手で押して小屋の中へと押し込む。
「なっ、何を……」
「何するか分かんねぇほどもう初心でもねぇだろ、観念しな」
キキョウが後ろ手に扉を閉め、高い位置にある明り取りの小窓から辛うじて光が入ってくるだけの小屋の中はすっかり薄暗くなった。
「ちょっ、ちょっと待ってください兄弟子、まだ仕事中ですしこんな時間から……」
「知ったこっちゃねぇよ、恨むんならてめぇを恨むんだな」
押し込まれた勢いで倒れ込んでいたリンドウが立ち上がろうとするのをキキョウが上から抑え込み、息を荒げて首筋に吸い付く。いつもは余裕綽々の顔をしてリンドウを追い詰めていくキキョウがこんなに余裕を失っている姿は初めて見るもので、剥き出しになった相手の欲望に対する恐怖心とざらりとした舌が汗を舐め取っていく感触がもたらす快感とが混ざり合い身動きの取れぬ現状と相まってリンドウを怯えさせる。
「あっ、兄弟子っ……、やめっ、んんっ……」
両腕を抑え込まれ首から鎖骨、胸をただひたすらに舐め吸われる。しっとりと汗に湿っていた肌はぬめる唾液で塗り替えられていき、荒い息が肌にかかる。
「やめて、くださいっ、兄弟子……っ!」
「あんま大声出すと誰かに聞かれちまうかもな、オレぁ見られても構わねぇがおめぇは困るんじゃねぇのか?」
言われて、キキョウは扉は閉めたが閂はかけなかった事を思い出す。声が漏れて聞かれれば何事かと思った人が入ってきて今のリンドウが押し倒され嬲られている光景を目にするだろう。誰に見られても気まずいどころでは済まないし、できれば隠し通したかった。
「暑いからってあんなに襟開いて誘ってねぇっていう方がおかしいだろ、黙ってヤらせろ」
「そんな、無茶苦茶な……! その理屈でいったらっ……、ブーケガルニはどうなるんですか!」
「普段きちっと隠してるおめぇがチラチラ見せてる方がエロいに決まってんだろ」
確かにレヴンにいる間は暑いのでコートも刀も身に着けず作務衣にエプロンの軽装で仕事しているし先程は汗をかいてしまったので誰もいないからと襟元を開けたのも事実だ。だがそんな事がキキョウの欲情を呼び起こすなどはっきり言って想定外すぎる。まさか自分がそんな目線で見られるとは露程も考えたこともなかった。欲望の赴くままがむしゃらに肌にむしゃぶりつかれ、その荒々しさに恐怖を覚えながらも身体は徐々に反応し始めてしまう。キキョウは器用に歯を使って作務衣の結び目を解き前をはだけさせる。労働のためにかいたものとは別の汗を滲ませ始めている腹筋を舌先でなぞられ声が漏れそうになるのをぐっと堪えるが、襟口から僅かに覗いた肩に強く歯を立てられると高く声を上げてしまう。
「ああっ! あ……ぁっ……」
「そんなでけぇ声出したら外に聞こえんぞ、噛まれて痛いので感じちまう変態だってみんなにバレちまうなぁ?」
「ぐっ、あ……ちがっ……」
歯型が付くほど強く噛まれた箇所がじんじんと熱を持って疼く。気温が高いのも相まってか本当に熱が出てしまったかのように身体が熱い。キキョウはリンドウの手首を戒めた手を離すと、左の手甲を外して側に放り腕をリンドウの眼前に近付けた。
「おめぇも噛んでみろよ」
「はっ……な、どうして、そんな……」
「おめぇだけ気持ち良くなってんのはずりぃだろうが、いいから噛め」
差し出されたキキョウの腕が唇に当たる。噛まない限りは解放もしてもらえない空気を感じ取りリンドウはようやく自由になった手でキキョウの腕を掴むと軽く歯を立ててみた。
「なんだそりゃ、歯ぁ当ててるだけじゃねぇか、こうすんだよ」
言うとキキョウは袖から露わになったリンドウの腕に歯を立てやや強めに噛み付いてきた。
「ぐっ、あ……っ!」
鋭い痛みが走るがその感覚すら脳が快感だと錯覚してしまう。痛みが故にか別の要因でか目が潤み、霧に包まれたようにぼんやりと思考が定まらなくなっていく。これ以上噛まれては箍が外れておかしくなってしまうという危機感が胸を締め付けて、言われるがままリンドウは思い切って先程よりも強めにキキョウの腕に歯を立て噛み付いた。
「っ……く、そうだ、いいぜ……やりゃあ出来んじゃねぇか」
キキョウは満足気な笑みを見せると、作務衣をはだけて胸といわず腹といわず腕といわず手当たり次第にリンドウの身体に歯を立て始めた。最早痛みなのか快感なのかも分からぬ感覚に翻弄され燃え盛り続ける熱に浮かされながら、眼前のキキョウの腕を無我夢中で噛み舐めた。そうすればそうするほど今まで味わった事のないような甘い陶酔感が強まり体中を満たしていく。本来ならば仕事に集中していなければいけない時間にこんな事をしているという後ろめたさすらいつの間にか忘れ去っていた。
「はぁっ……もう我慢できねぇ」
息を荒げたキキョウが、リンドウの眼前から腕を離してリンドウの下衣の留め紐を外していく。それに逆らう気力ももうなかったし、身体が求めて期待しているのも認めざるをえなかった。頂点まで行く意外にこの熱を吐き出し楽になる方法はないのだと散々今まで思い知らされ続けていた。
「おら、起きろ、こっちにケツ向けろ」
下衣と下着を膝までずり下ろされ、キキョウの言葉に逆らわずにリンドウは四つん這いの姿勢をとった。そこでようやく仕事中になんということをしているのだろうという羞恥と後悔が襲ってくるが、そんな思いも窄まりに宛てがわれた熱いものがこれから押し入ってくるのだという期待に掻き消されてしまう。
「はっ……あ……」
「なんだその声はよ、そんなに欲しいのか?」
「んんっ……ほしい、です……っ」
欲しいあまりに窄まりが小刻みにひくついてしまっているのを己でも感じ、その浅ましさに情けなくはなるものの早く満たされたい欲求を抑えることができない。
「もし今誰か食材取りに来たらよ、その甘ったれた声でチンポねだってる姿が見られちまうな?」
「はっ、あっ……いやだっ……ああっ!」
突然現実に引き戻されるような事を言われ、急に恐ろしくなりなんとか逃れようとリンドウは足掻くが、がっちりと腰を掴んだキキョウの手はびくともせず、嫌がるリンドウを嘲笑うかのように男根が体内へとめり込んでくる。
「ひぅっ、あっ、ああぁっ!」
「おら、そんな大声出したら誰かに聞かれちまうぞ」
「やっ、いやだっ……抜いて、くださ……っ」
「やだね」
リンドウの反応を愉快がって楽しげな声でキキョウが告げ、硬く熱いものが一気に最奥まで突き入れられる。
「んんっ、んっ――……んん……っ!」
背筋を走り抜けるあまりに大きすぎる快感を、必死に歯を食いしばって押し殺そうとする。押さえきれなかった声がくぐもって漏れ肩と腰を震わせるが、すぐに容赦のない激しい抽送が繰り返され休む間などなかった。いつものキキョウの焦らし追い上げ追い詰めるやり方ではないがむしゃらなまでの激しさに、恐怖を感じる自分と求めていた激しさに満たされる自分が同時に存在している。
「はっ、……はげしっ……んんっ、んっ――……!」
内臓がひっくり返されてしまうのではないかと思うほどの激しい突き上げが止む事なく続く。残った理性は声を抑えるだけで使い切ってしまい、本能だけで動く自分とは思えない自分の一面が身体を支配する快楽に従って盛んに腰を振り硬く熱いものを更に奥へと招き入れようとうねる。止めようとして止められるものではなかった。
「ああっ! あぁ……あっ、んんんっ……」
快楽に身を委ね切って頭の中など蕩けきっていたところに突然首筋に噛みつかれ、高い声を上げてしまう。
「そんなに噛まれんのが好きかよ、すげぇ締まんぞ……」
「やっ、んんっ、んっ……ああっ!」
リンドウの反応に気を良くしたのかキキョウは位置を僅かにずらしたり突然別の場所に移ったりして幾度かリンドウの肌に歯を立てた。その度に身体を支える腕と腿が震え、声を抑える理性すら危うくなってくる。
「あっ、あにでしっ……! も、むりでっ……は、ああっ、あっ!」
「声っ……大きくなってんぞ、もしかして他の奴に見られてる方が燃えるんじゃねぇだろうな?」
「やっ、ちがっ……あっ、ああっ、んんんっ……!」
「やっぱりそうなんじゃねぇか、見られんの想像しただけでこんなギチギチに締めちまうんだろ?」
「いやで、すっ……んんっ、んっ、ふ……はぁっ、あっ、ああっ」
激しく突かれながら言葉で嬲られる、そんな屈辱的な状況だというのにそうされればされるほど身体を侵す快楽はより大きく深くなっていく。だらしなく開いた口の端から垂れ伝った唾液が土の床を濡らし黒い染みを作る。
「はあっ、あっ、ああっ……もうっ、んっ、はっ……」
「イキてぇのか? いいぜ、オレも、もう……っ」
言いながらキキョウはリンドウの胸から腕を伸ばし肩に手をかけがっちりと深く身体を密着させた。そのまま強く速い抜き挿しが繰り返され、キキョウの荒い息の音を耳の傍に感じながらリンドウはどんどん絶頂へと押し上げられていく。
「やっ、ああっ、あっ、ああぁっ、あっ、も、イくっ、イッちゃ……っ!」
「イけよ……っ!」
低く強い囁きが耳の中に響きより深く突き入れられ、頭の中で何かが弾け飛ぶ感覚を覚えると共に背中がしなりがくがくと脚が震え、張り詰めていたものから勢いよく欲望が吐き出されるのを感じる。絶頂感に打ち震える間もなく腹の中が熱いもので満たされて、意識を白く溶かしてしまう。腕がもう身体を支えきれなくなり、上半身がずるずると傾いて顎がぺたりと床に着いた。
「おいおい、そんなんでこの後仕事戻れんのかよ?」
「あっ……兄弟子の……せいでは……」
「そっちが誘ってきたんだろうが、人のせいにすんじゃねぇよ」
「さ、誘って……ない……です」
この議論は平行線の水掛け論だ、そうは分かっていたが文句の一つも言わせてほしかった。身体の疼きは収まったがこれでは身なりを整えて仕事に戻るのにはまだしばらく時間がかかってしまう。
やはり誰がどこを見ているのか分からないのだからいついかなる時も身なりは整えておかなければならない、そんな自身の持論がより強く証明される結果となってしまい、今後は細心の注意を払って気をつけなければならないとリンドウは固く決意するのだった。
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