夜のお菓子
レヴン名産のうなぎを使った和菓子を何か作れないかなというランチの提案でうなぎとにんにくを組み合わせた不眠カステラが出来上がり、リンドウとキキョウはその試食をしたのだが甘辛い味付けのうなぎとにんにくの旨味がカステラにしっとりと染み渡り想像もつかなかったいい味になっていた。そこまでは良かったのだが。
困ったのは夜寝る時になってだった。いつもなら眠気がぼんやりと頭を包んでいるのに、頭は冴え渡り眠気など欠片もない。
「全然眠くねぇな……今日食ったアレのせいだろうが、お前何か変なもん入れてねぇだろうな?」
「兄弟子も作る所を側で見ていたではないですか! 妙な物など入れてません!」
「……ったく、だからあいつのトンチキレシピの味見はやなんだよ」
深く溜息をついてキキョウはどかりとベッドに座った。ランチのレシピをトンチキと言われることについては訂正してほしい気持ちがあるが、今回に限っては困っているのはリンドウも同様なので何も言えない。眠くないだけではない、身体の底から熱が湧き上がってくるようでじっとしているとどうも落ち着かない。いっそ外でも走ってきたら発散されてすっきり眠れるだろうか。
走るにしてもとりあえずと上着を脱ぎ刀を置いてエプロンを外すと、おいと後ろから声がかかった。振り向くとキキョウがこちらへ来いと指で招いていた。嫌な予感しかしないが逆らうわけにもいかずにキキョウの前に立つと腕を掴まれ屈まされる。
「あの……兄弟子?」
「少し体でも動かさねぇことにゃ眠れそうにねぇから付き合え」
「俺もそう思っていて少し走りに行こうと思っていたのですが……兄弟子も一緒に走りますか?」
「あ? 誰がそんなかったりぃ事するかよ。んな事しなくたって他にあるだろ」
苛つき気味に顔を顰めたキキョウが掴んだリンドウの腕を引きながら後ろに倒れ込み、いきおいリンドウがキキョウを押し倒している格好になってしまう。
「しようぜ」
そう言って艶やかに笑んだキキョウの表情に、思わずごくりと喉が鳴る。身体が熱い。腕を掴んだキキョウの手も熱を帯びている。気密性の高い戦車を改造したキッチンカーの中は気温の高いレヴンではただでさえ蒸し暑いのに、気温とは関係なく身体の内側から燃え立つ熱で汗が滲む。もう抗う気も起きずに誘うように緩く開いたキキョウの唇に吸い込まれていくように口付ける。唇を柔く食み合うだけではすぐに物足りなくなって、忍び込んできた舌先と舌先が熱に浮かされたように激しく絡み合う。口蓋を舌先でなぞられるとびくりと肩が震え、舌と舌が触れ合っている所から溶け合ってしまっているような錯覚に陥る。今日はなんだか身体の様子がおかしい、口付けだけでもうはちきれそうなほど中心に血が流れ込んで集まっているのを感じる。
「んんっ! んっ……ふぁ……んっ……」
もうすっかり硬く立ち上がったものを脚の間に入り込んだキキョウの太腿が擦り上げ、鼻から甘ったれた声が漏れてしまう。重なり合った身体の間に腕を差し込みキキョウの局部に触れると、こちらももう熱を帯びて着物の上からも形をはっきりと感じとれるようになっていた。ゆっくりと上下に擦ると、キキョウが息を詰めリンドウの腕を掴んだ手に僅かに力がこもる。
「んだよ、もう我慢できねぇのか?」
「はっ……あ、兄弟子だって……」
「おめぇが妙なもん食わせるからだろ、身体が熱くて仕方ねぇや」
「なっ……兄弟子だって美味しいと言って食べていたではないですか!」
「味は関係ねぇだろ、おら、まだ足りねぇんだよ」
言ってキキョウはリンドウの襟首を掴み引いて再び深く口付ける。互いの舌先を貪り味わいながら服を脱がせ合い汗ばんだ素肌をまさぐる。熱は身体の内側からどんどん生まれてきて身体も思考も支配していく。腰を落として揺り動かしキキョウと己を擦り合わせると布に遮られているというのに燃えるように熱く、たまらない疼きがそこからいくらでも溢れ出してくる。
息が続かなくなり口を離すとリンドウは半ば脱がされた上衣を脱ぎ捨て、何かに誘い込まれるようにキキョウの首元に吸い付いた。汗混じりの首筋の味と匂いに頭がくらくらする。時折キキョウが声を堪え息を詰める箇所に行き当たるとそこを強く吸ったり歯を立ててみると、息が荒くなっていくのが分かる。
「馬鹿野郎、そんな強く吸うんじゃねぇよ、跡が残んだろうが……」
「兄弟子もいつもこうするではないですか」
「オレぁちゃんと服着たら見えねぇようにしてんだろ。ガキもいるんだからちったぁ考えろよ」
文句をつけるキキョウの顔をしばし無言のままとろんとした眼でリンドウが見つめる。何か言いたい事があるのかと眉を顰めたキキョウが口を開こうとすると唇が塞がれ、また一頻り口内を貪ってから唇を離したリンドウがようやく口を開く。
「無理です……兄弟子のそんな顔……見てたら抑えなんてききません」
「なんだよ、いっちょ前に欲情してやがんのか」
「はい……してます」
どこか苦しげに目を細めリンドウはそう答え、再びキキョウの肌に舌を這わせる。キキョウからしてみれば大きな犬に甘えられているようなものだが、折角やる気になっているものを腰を折ることもないだろうと好きにさせることにする。
「はっ……あ、兄弟子……っ、んっ……」
すっかり熱に浮かされた上擦った声で呼ばれる。リンドウはざらついた舌で乳輪を舐めながら下に降ろした手で裾を割り下帯越しにキキョウの昂ぶりを撫で擦る。刺激されぷくりと膨らんだ乳頭に歯を立てられると思わず甘い吐息が漏れた。
「兄弟子の声……聞きたいです」
「おめぇがもうちっと上手くなったらな」
キキョウの答えが不服だったのかリンドウは頭を上げると憮然とした表情を見せた。何か文句でも言われるのかと思ったが、リンドウの口から出てきたのは思いも寄らない質問だった。
「その……兄弟子は、これまで抱かれる側だった事もあるのですよね……?」
「……ああ、そりゃまぁな、そういう事もあったぜ」
「なんだか……ずるいです。その人は、そのつまり……俺の知らない兄弟子の顔とか声を……知ってるということで……」
言いづらそうに辿々しい口調でリンドウが口にした言葉を聞いて、キキョウは一つ溜息をついた。一丁前にキキョウの過去に嫉妬までするようになってしまったらしい。可愛い所があるという感想と面倒臭い奴という感情が同時に湧き上がる。
「んな事言ったってもう済んだ事なんだからしょうがねぇだろ。悔しかったら精々オレを満足させてみろよ」
「それは……そうですが……」
「別に感じてる演技してやってもいいぜ? お前がそれでいいならな」
「それは駄目です!」
リンドウの食い気味の即答にキキョウは若干たじろいでしまい、面倒臭さが心の中でやや勝ってくる。こんな童貞丸出しの面倒臭い奴にこんなに入れあげる予定ではなかったのにどこで狂ってしまったのか。ちょっとからかってやるだけのつもりだった筈が、ぬかるみに足を取られるように嵌まり込んでしまった。どうやら長く時を共にしすぎてしまって情が湧いてしまったのだとは思うが、厄介な奴に手を出してしまったと多少の後悔がないではない。
いつまでも一緒にいるわけではないのに情を移してどうするのか。旅から旅への日々も終わりに近付いている今だからこそ身に染みて思う。こんな風になりたくはなかったから、今まではただ身体を満足させる為だけの関係を幾人もの身体を渡り歩くように重ねてきたのに。別れがたい離れがたいといういらない気持ちを一度覚えてしまえばもう消えない。
そんな事を考えてもどうにもなりはしない。今はただどうしようもなく熱く火照ってしまった身体を這う肌よりも熱い舌と指先の感触に身を任せる。そう簡単に声を聞かせてやるつもりはないけれども、辿々しくも懸命な愛撫に息が荒くなってきてしまっているのも事実だった。
「着物……汚れてしまうといけませんから」
顔を上げたリンドウがそう言ってキキョウの着物を脱がせ、まだ脱いでいなかったブーツを少々指を縺れさせながら脱ぎ捨てて改めてベッドに上がり、キキョウの腰元に顔を埋める。
「兄弟子の、すごく、熱い……」
下帯越しにリンドウの鼻の頭が痛いほど張り詰め滾ったものを掠める。それだけの刺激でもびくりと顎が上がってしまう。そのまま布地の上から唇で柔く挟み込まれ擦られる。出会った頃は色事など未経験でひたすらやめてください恥ずかしいを繰り返すだけだったリンドウがこんな淫猥な行動を自分から取るとは当時は想像もしていなかったし、今日はやけに積極的なのは恐らく例の不眠カステラのせいもあるのだろう。辛抱がきかない様子の性急な動作でリンドウはキキョウの下帯を解き、その下から現れたそそり立つものを陶然とした目で眺め、口を寄せそっと舌を這わせた。
「っ……んだよ、もうぶち込んでほしいんじゃねぇのか?」
「欲しいですが……その前に、口で、イッてほしいです……」
甘い吐息を混じらせた声でリンドウはそう答え、男根を片手を添えて口元に引き寄せ亀頭を口に咥えてすっぽりと覆う。
「んっ……ふ……」
思わず呻き声が喉から漏れる。温かい口内をめちゃくちゃに掻き回したい欲求が募るが、やる気に水を差してはとぐっと堪える。いつからこの弟弟子に対してこんなに甘くなってしまったのかと自分でも呆れるが、どうにも悪い気はしなかった。
あまり上手とは言えないリンドウがしているとはいえ妙な感じで昂ぶり敏感になった身体には口淫の刺激はあまりに鮮烈で、すぐに気を遣ってしまいそうになる。(ご飯のおかずに使う食材とカステラを組み合わせる発想がどう考えてもおかしいという点を除けば)ごく普通の材料を使っただけの普通のカステラだというのにあのカステラによって身体がおかしくなってしまっている。うなぎもにんにくも確かに精力を増強する効果はあるだろうがここまでの効果を及ぼすというのはいかにも考えづらい。だがいくら考えても原因は分かりそうにないし、今はただ燃えるように熱い身体を快楽の波に委ねていたかった。
「く、はっ……いいぜ、もっと先の方も、舐めろよ」
時折反応を確かめるように上目遣いに見上げてくるリンドウと目が合い、今すぐにでも目茶苦茶に犯し倒したい欲求が湧き上がるのを紛らすようにリンドウの頭に手をかけ耳朶を指先でなぞったり弾いたりしてみると、リンドウの喉から切なげな声が漏れる。根元から半ばまでを緩く掴んだ手が扱き、上半分をすっぽりと覆った口内では焦らしてでもいるのか纏わりつく舌が今にもはちきれそうなものをねっとりと舐め回す。もっと明確な刺激を与えられて解放されたくてたまらなくなり、リンドウの頭を掴んだ手に力がこもる。
「おい、そんな、焦らすんじゃねぇよ……っ」
「兄弟子の、もっと……いっぱい舐めたい……」
夢見心地といった表情のリンドウが口を離しそう答え赤い舌をちろりと覗かせ肉茎を舐め上げた。それを目にした刹那ぞくりと悪寒にもどこか似た何かが背筋を走り抜け頭の天辺を震わす。次の瞬間には起き上がり両手でリンドウの後頭部を捕まえ、根元までその口の中に肉茎を押し込んでいた。
「あんま、調子乗ってんじゃねぇぞ……そんなに欲しいなら、もういらねぇってほどくれてやるよ……」
「んんっ……んぶっ……んっ」
そのまま腰を前後に激しく揺らし衝動のままに狭い口内を犯し尽くす。快感を追い求める事で頭が一杯に満たされてしまい抑えが利かない。まだ足りない、もっとだ、底の見えない渇望が身体を突き動かす。従順に肉茎を咥えこみ懸命に舌を絡ませてくるリンドウの姿に征服欲と支配欲が満たされていくのを感じる。欲求に素直に従い己の快楽だけを追い求めていると限界はすぐに目前に迫ってしまう。
「んっ……そろそろ、出すぞ……っ!」
「んんっ、ふ……は、んっ……」
リンドウの頭を掴んだ手にぐっと力をこめ引き寄せ、溜めに溜まったものを幾度かに分けて吐き出す。いつもより長引いた射精がようやく終わってリンドウの口から男根を引き抜くが、あれだけの量を吐き出したというのに収まる様子はまるでないしかえって猛っているほどだった。まだまだ足りないという実感は確かにある。リンドウの口の端からは飲み込み切れなかったのか白いものが筋を作って伝い落ちていた。
「こぼすなっつってんだろ」
溢れた精液を人差し指で掬い集め、リンドウの口の中へと捩じ込む。嫌がる様子も見せずにリンドウは差し込まれた指に纏わり付いた精液を舐め取った後、白濁に塗れたキキョウの肉茎に舌を伸ばす。
「すごい……まだ、こんなに硬い……」
キキョウの腰に縋り付き白濁を舐め取っていく。キキョウはこういう行動をとられるのが決して嫌というわけではなくむしろ好きだと言っていいが、今のリンドウが普段の様子からするとかなり積極的すぎるのは確かだった。自制心が利かなくなっているのはキキョウも同じだがキキョウ以上にリンドウは理性の箍が外れてしまっているようだった。
「もう口じゃ足りねぇよ、早く挿れさせろ」
「あっ……」
肩に手をかけ押し倒すとリンドウの身体は何の抵抗も見せずにベッドに沈んだ。首筋にリンドウの腕が回され引き寄せられる。扇情的なその仕草に誘われるまま唇を合わせ、先程己が吐き出した精液の苦味と生臭さが残る口腔をじっくりと味わう。ぬめる舌も熱を帯びていて先程吐精したばかりだというのに一向にやまない身体の火照りは増していく。こいつ相手にこんなに蕩かされてしまいそうなほど感じさせられるとはと悔しさが湧き上がるがそれもこれも妙なものを食べさせられたせいなのだからと思い直す。手探りで腿を割り開き後孔の位置を確かめ腰を進め強引に割り入る。
「んんっ、あっ、ああ……あ、ああぁっ!」
腰を進めると、リンドウの腰がびくりと跳ね上がり持ち上がって首を振って唇が離れる。びくびくと腰が震えて腹の上に二度三度と白いものが吐き出されていった。
「んだよ、もうイッちまったのか? まだまだこれからなのによ」
「はっ、あ……きもちっ……よすぎて……」
耳許に囁きかけると耳にかかる息にもリンドウは身体を震わせた。しきりに腰を揺り動かし咥え込んだものをきゅうきゅうときつく締め付けてくる。楽しむなどという余裕はキキョウにも残されていない、ただこの身体をひたすらに貪り尽くしたい、その欲求だけで頭の中は満たされている。
「どうせ一発じゃ足りねぇだろ、手前でしとけ」
リンドウの右手をとって萎える様子など全く見せない陰茎に宛てがうと、リンドウは苦しげに短い息を吐きながら素直に陰茎を手で握り包みゆっくりと上下に扱き始めた。
「ふあぁっ、あっ……は、早く……っ、して、くださっ……」
「言われなくても……明日、腰が立たねぇようにしてやるよ……っ」
そう告げてリンドウの両脇の下から手を差し込み肩をがっちりと掴み、欲求のままに身を任せて目茶苦茶に突き上げる。加減などもう知った事ではなかった。密着した肌は次から次へと吹き出してくる汗でぬめり濡れ滑る。力任せに突き入れて引き抜く度に脳を白く灼く快感が身体を突き抜けて単純な抜き挿しの動きへの意識の没入を深めていく。
「はあぁっ、あっ、いつも、よりっ……熱くて……ああっ……!」
「やべぇな、これ……止まんねぇ……っ」
理性という枷など取り払われてしまった動物的な本能だけがひたすらに身体を突き動かす。いくら快感を貪ってもこんなものでは足りないという渇望が強まるばかりだった。顎を上げ首を巡らせて止め処なく嬌声を上げるリンドウの白い首筋が目に入り、たまらなくなって強く歯を立てる。
「いっ、ああぁっ! またっ、でるっ……ああっ……あっ!」
「っ……ふっ、く……っ」
強く噛みつかれたことで再び絶頂に達してしまったリンドウにきつく締め付けられ、キキョウもたまらず呆気なく限界を迎えて精を注ぎ込んでしまう。まるで初体験の時のような無様さで達してしまったことは面白くないが、感覚の一切がコントロールできなくなってしまっていて抑えるなど無理な話だった。
「まだ……収まんねぇな……っ」
「もっと、もっと欲しいです……まだ……足りない……っ」
熱に浮かされた譫言のように涙の溜まった目で荒い息の隙間を縫ってリンドウが要求してくる。言われるまでもない事だった。この身体の内側で燃え盛る炎が鎮まらないうちはやめるなどできそうもない。
結局情交は深夜遅くに及び、次の日(いつも起きてこないキキョウはいいとして)リンドウは大寝坊をしてしまうやら昨日の己の痴態を思い起こしてはひたすら自己嫌悪に陥るなど散々の体で、笑う腰を引きずってランチにレシピの見直しを提案した。その後何度かの試行錯誤を経てリンドウの睡眠時間と腰を犠牲にし、ようやく次の日の仕事に影響しない不眠カステラが完成したのだった。
店頭に並んだ不眠カステラをキキョウが倦怠期の夫婦にぴったりと売り込んでいるのを聞いてしまったリンドウはただ顔を真赤にして俯く他なかったという。
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