甘やかす方法

 久し振りに顔を合わせたリンドウは終始浮かぬ顔をしていた。三ヶ月振りに会ったのだが、その間見習いとして入っていた老舗和菓子店での修行が思うようにいかなかったらしい。あれだけ忙しいまんぷくマルシェを切り盛りしていたリンドウだ、手際が悪いだとか仕事が遅いだとか技術的に劣るというような初歩的な問題は恐らくなかっただろうが、恐らくはその老舗の芯の通った菓子作りへの確固たる信念と姿勢に圧倒されてしまい自信を喪失してしまったというところだろう。修行の年月に見合った実力はきちんと付いているというのにちょっとした事で自信を失くしたり自分を見失いやすいのはこの弟弟子の欠点だ。
 和菓子に携わる者ならば名を知らぬ者はないような由緒ある名店に、何のつてもない丸っきり外部の人間が短期間とはいえ修行に入らせてもらえたというそれだけでももうリンドウの実力は証明されているようなものなのだが、本人はその事実には気付いていない様子だった。自分の積み上げてきた実績と自分の能力をいやに過小評価し卑下するのもこの弟弟子の良くない点だ。しばらく会えませんと言ってきた時に気合いが入っているのはいいが少々肩の力が入りすぎで気負いすぎている様子だったのも、リンドウらしいといえばそうだがどうなる事やらと結果が危ぶまれたが、嫌な予感は的中してしまった。
 だがキキョウが何かを言ったところで兄弟子には才能があるから自分の気持は分からないと口には出さずとも心のどこかで思われるのだろうし、それはどうにも面白くない。それならばいっそ和菓子の事などしばらくは忘れさせてやった方が少しは頭も冷えるだろう。
「おめぇ、この先しばらく予定はねぇんだろ?」
「え、はい……キッチンカーでの営業に戻るつもりでしたが……」
「じゃあそれはしばらく先に延ばして、二三日付き合えや」
 耳許に口を寄せ、じっくりたっぷりな、と低い声で付け足すとリンドウの顔は耳まで瞬時に赤く染まる。リンドウに車を出させ向かったのは山間の渓谷だった。そこにキキョウ馴染みの旅館がある。
「清々しい空気ですね、なんだか気持ちも晴れ晴れとしてくるような気がします」
 運転席から降りて腕を上げて背筋を伸ばし、辺りを見回してリンドウはそう呟いた。林からの木漏れ日を揺らすそよ風と耳に心地良い渓流のさざめき、山間の旅館を彩る光と緑は娑婆の喧騒を忘れるにはもってこいの風景だった。
「クソ真面目なのもおめぇのいいとこだけどよ、たまにゃあこういう息抜きも覚えた方がいいぜ。おら、中入んぞ」
「あっ、はい」
 さっさとキキョウは歩き出しその後をリンドウが追う。後で散歩がしたいです、というリンドウの言葉は適当に聞き流しておく。明日にでもなればともかく今日は散歩など楽しませるような余裕はない。憧れていた老舗での修行だからしばらく会えないと三ヶ月もお預けを食わされたキキョウが今何を考えているかをこの弟弟子は全く理解していないだろう。
 観光地化されているわけでもない山間の旅館を利用するのはこの付近の清流が穴場と知る釣り客が主で、その数もそう多くはなくいつ訪れても部屋が満室ということはほぼない。人里から離れ喧騒も遠く、充実した設備の部屋でゆったりと静かに過ごせるこの旅館はキキョウのとっておきのお気に入りだった。
 受付を済ませて二人用の部屋に通され、風呂に入っている間に布団を敷いておきその後は呼ぶまで来なくていい旨を去り際の女中にそっと耳打ちする。ひとまず上着を脱いで座り茶を飲んで喉を湿し一息ついてから、来てみろよと声をかけリンドウを誘う。部屋の端に脱衣所への扉がありまたその奥の扉の向こうには温泉が湧いている。それを見ておおと感嘆の声がリンドウから上がった。この旅館には大浴場も勿論あるが部屋ごとにも温泉を引いてあり人目を気にせずゆっくりと浸かることができる。それもまたキキョウがこの旅館を気に入っている理由の一つだった。
「まずは風呂に入ろうぜ」
 楽しげに笑んで言いながらキキョウは後ろのリンドウに向き合ってこめかみに手を伸ばし眼鏡を外し、畳んで洗面台の上に置いた。ごくりと唾を飲む音が聞こえる。
「……あの、一緒に、ですか?」
「当然だろ、何か問題あるか?」
 躊躇いがちな様子のリンドウの問いにキキョウが当たり前だとばかりに答えると、リンドウは頬を薄っすら赤らめ目線を横に逸らした。
「その……風呂、ですと…………のぼせてしまうので……」
「構わねぇぜ、そしたらゆっくりじっくり介抱してやるよ」
「……それは、介抱とは言わないのでは?」
「細けぇ事ぁ気にすんなよ、せっかくゆっくりしに来たんだから存分に楽しもうぜ」
 伏し目がちに目線を横に逸らしたままのリンドウは、作務衣の留め紐に手をかけても逆らう素振りを見せなかった。お前だって期待してるんじゃねぇか、意地悪な感想はひとまず胸の内に留め置く事にしてリンドウの服を脱がせ自身も脱衣籠は無視してそこらに適当に着物を脱ぎ捨てて裸になり髪も解いて躊躇うリンドウの手を引いて浴場に入る。リンドウを椅子に座らせると手桶で湯を汲み肩口から掛けてやる。
「あの……仮にも兄弟子ですし、俺が先に洗っていただいては申し訳ないので……先にお背中を流させてください」
「後で落ち着いたら手前で適当に洗うから気にしなくていいぜ。いいからおめぇはそこ座ってろ」
 そう言われても堅物のリンドウのことだ、気にはなるのだろう。どことなくそわそわしながらそれでもキキョウの言葉には逆らわず言われた通りに座ったまま湯を浴びせられるに任せている。そろそろいいだろうとキキョウの手拭いと自分の手を濡らし、石鹸を泡立て始めた。手拭いでたっぷりと泡立てた石鹸の泡を手に取り、その手をリンドウの背中に滑らせるとリンドウの肩がびくりと震えた。
「……っ! ん……キキョウさ……洗うなら、手拭いを、使えば……ぁっ」
「なんだよ、手で洗われちゃあなんかまずいのか?」
「は、ん……っ、触り方、が……いやらしいです……」
「オレぁ普通に洗ってるぜ? そりゃ気のせいだ、それかおめぇが敏感すぎんのかどっちかだな」
「あぁっ! あ……うぅっ……」
 言いながら背骨に沿って掌を滑らせると背筋が撓り、どうにか抑えようとしながらも漏れ出してしまったと思しきリンドウの感極まったような喘ぎ声が浴室に響いた。
「おめぇも三ヶ月の間に大分溜まってたんだろ? たっぷり抜いてやるよ」
「そんな、こと……っ、あ、あぁっ……ふ、んっ……」
 たっぷりと背中を撫で回してから石鹸の泡を継ぎ足し脇から脇腹を撫で肩口から腕へと手を滑らせていく。時折身体をびくつかせ震わせながらリンドウは必死に声を抑えている様子で、我慢など忘れ去るほど感じさせて大いに喘がせてやりたいとちょっとした嗜虐心が顔を覗かせる。リンドウの手にもたっぷりと泡を塗りたくり、指の股を撫でるとたまりかねたのか首が仰け反る。
「どうしたよ、身体洗ってるだけだぜ? これだけでそんなに感じちまってんのか?」
「は、あぁっ……キキョっ、さんが……いやっ、いやらしいっ……、触り方を、するから……っ」
「そんな事ぁねぇよ、普通に洗ってやってるだけだぜ? いやらしい触り方って、例えばこんなか?」
 リンドウの首周りにたっぷりの泡を塗りたくり、そのまま手を下に滑らせて胸板を撫でる。何もせずとも既に硬く勃起していた乳首を人差し指と中指で挟み込み石鹸のぬめりの力を借りてくにくにと少し弄ると、それだけでリンドウの背筋がびくりと撓り、抑える事を忘れ去った高い声が漏れた。
「あぁっ! あっ、あ……やっ、やめ…………そこっ、やめて、くださ……あぁ、あっ!」
「何でだよ、感じてんだろ? もっと欲しくてたまらねぇって顔してんぜ」
 リンドウの目の前の壁には鏡が貼り付けられており、恐らくキキョウはその鏡でリンドウの表情を逐一観察しているのだろう。だが眼鏡のないリンドウは視界がぼやけ鏡の映す像がどんなものであるかも定かでない。どんな浅ましい顔をしてしまっているのか、それを思うだけでも身体が更に熱を帯びていく。いつもとは違うぬるぬるとぬめり滑るキキョウの指先が円を描くように動いて乳首を嬲り時折引っ掻き押し潰す。キキョウの手首を掴み引き剥がそうとするが、石鹸でぬめった手は虚しくキキョウの腕を滑るだけだった。されるがままに翻弄され高められていき、もう抑える事を忘れたリンドウの声は音のよく響く浴室に反響する。
「あ、あぁっ、は……ああっ! やっ、キキョ……さっ、あ、あぁっ、やめ、んっ、あ、あ、あぁ、あぁっ!」
「声、でかくなってるぜ。女中が布団敷きに来てるかもしんねぇから、おめぇのそのいやらしい声全部丸聞こえになっちまってるかもなぁ?」
「……っ! や、やめっ、もうっ……んっ、んんっ、は、あ、あっ、あっ……ん、んっ、あう……っ」
 どうにか声を抑えようとするものの、一度喉から零れ出した声はもう留め置けずに次々溢れてくる。抑え込もうとすればするほど声と吐息は淫猥な響きを帯びて、激しく羞恥心を刺激してそれが身体の奥底に燃え盛る炎に更に薪を焚べていく。
「やめっ……キキョさ……っ、もっ……ほんとに……っ! あ、も、もうっ、イきそ……だから……っ!」
「たっぷり抜いてやるっつったろ、いいぜ、好きなだけ出して。しっかり上向いてイく時のいやらしい顔見せろよ」
 耳許にかかるキキョウの息は荒く熱い。快楽に耽溺する己の顔を鏡越しに全て見せてしまっている事が恥ずかしくてならず、どうにか胸元を執拗に責め立てる手をどかそうとするが無駄な足掻きに終わる。せめて俯いて顔を隠したいがぬるぬるとした肌触りの指先が執拗に乳首を扱き立てるいつもとは違う感覚がどうしようもないほどの快感を生み出してどうしても顎が浮いてしまい俯けず、どんどんとリンドウを絶頂へ追い込んでいく。
 身体を石鹸で洗われているだけなのに、そう思うと己の身体の浅ましさに羞恥が募るが、同時にキキョウのこの触り方はどう考えても洗うことを目的とした触り方ではないという思いも募る。だが何をどう考えようと、背中に胸を擦り付けるキキョウの指先にどうしようもなく高められ追い立てられて限界が近付いている現実は変わらないし逃れる事も叶わない。
「はっ、あっ、あぁっ、あ、んぁっ……も、もう……っ、それ以上、されたら……っ、だめです、から……っ、あ、あっ、ゆるして……くださっ……」
「今更恥ずかしがるような仲じゃねぇだろ? とっととイっちまえよ、なぁ? 乳首だけでイけちまうドスケベ野郎」
「あ、あぁっ、やだっ、もうっ……イクっ、イク……っ!」
 熱い息と共に耳の中に流れ込んできたじとりとした欲情を強く孕んだキキョウの声が最後の箍を外してしまう。頭の中がかっと白く焼け、背中が丸まって腰がびくりと揺れて硬直し、キキョウの手を引き剥がそうと必死に重ねた手は石鹸のぬめりでキキョウの腕を滑っていく。三度四度と白濁を床の上に吐き出す度に久々に味わう射精の感覚に頭の芯が震え、腰から全身に悦楽と脱力が広がっていく。とぷりとぷりと後の名残がしばらく流れ出し、ようやく射精が終わった頃にはリンドウは背後のキキョウにぐったりと背中を預けて荒い息を整えていた。
「随分溜まってたじゃねぇか、自分で適当に抜けっていつも言ってんだろ」
「普段は……そんなに、したいと……思わないので……」
「嘘つけよ、こんなにドスケベな身体してんのによ」
「本当です……キキョウさんに、触られると、こうなってしまうだけで……」
「何だよ、もっと欲しくて誘ってんのか?」
 胸元から下に手を滑らせ腹にも石鹸を塗りたくり、特に臍の辺りを指の腹を使って入念に刺激してやると、面白いようにリンドウの肩が跳ね堪えきれない声が短く漏れる。
「や、あ、あっ……そこっ……やめて、くださ……は、あぁっ、だめです、から……っ」
「駄目じゃねぇだろ、いいんだろ? ここいじられんの好きだもんなぁ?」
「はっあ、あぁっ、あ、ほんとに、もう……っ、むりです、からぁ……っ!」
 鏡の中リンドウの顔は敏感な箇所への刺激の強さに耐えかねてか苦しげに歪み目尻に涙が溜まっている。今日ばかりはあまり虐めずにたっぷりと甘やかしてどろどろに溶かしてやろう、そういう気分になりリンドウの腹から手を離す。
「おら、こっち向け」
 息も絶え絶えに力も入らない様子のリンドウの身体を支え、椅子の上で身体を回させてこちらを向かせる。石鹸の泡を立て直して手に継ぎ足し、足の裏から指の股、指と泡を塗り広げていく。リンドウが弱々しい喘ぎ声を漏らしながら身じろぎするがそれには構わず足の甲、踵、側面と泡を塗り広げ脛と脹脛へ登っていく。泡を手に継ぎ足しながら膝と膝裏、腿へから腰へと手を滑らせていき内腿に至るとリンドウの身体がびくりと跳ねる。その分かりやすい反応に気を良くして感じる箇所を探りながら内腿に手を滑らせ続け、前に乗り出して短い口付けを幾度も交わす。
 和菓子に携わる者ならば知らぬ者はないような名店に短期間とはいえ修行に入る、その事はこのただでさえ気負いやすい弟弟子にどれだけの重圧を与えていただろう。本来ならばやりおおせただけでも十二分に誇っていいというのに、生真面目さ故に上手くいかなかった所や改めるべき所ばかりに気が行っているのであろうリンドウに、今だけでも心を重くするそんな後悔を忘れさせたい。我ながららしくないそんな感情に突き動かされて幾度も幾度も口付けを繰り返す。
「ん……キキョウさ…………もっと、ちゃんと……キス、したいです……」
 甘ったるい響きの声が囁く要求に応えて、手は休めぬまま深く深く口付ける。差し出された舌を絡め取り、次々湧き出す唾液を擦り混ぜ合わせ、鋭敏で繊細な口内の触覚全てで相手を感じ取る。三ヶ月もお預けを食わされていたのだ、いくら貪っても足りはしない。幾度か息継ぎの為に口を離して息を吸い込んではまた食らいつき、飽きる事を知らぬかのように夢中で口付けを交わす。
「んっ、んんっ……ん、んぁっ、うむっ……うん、ん……んん……っ」
 キキョウの背中に回されたリンドウの手は石鹸でぬめって滑り、意図してはいないだろうが緩やかな快感を与えてくる。愛撫し続けている内腿には力がかかって緊張し硬くなり、絶頂に近い快感に打ち震えているのが手に取るように分かる。ゆっくりと口付けを解くと、まだ物足りなさそうな顔をしたリンドウがいつでもキキョウを迎え入れられるように口を半開きにして見上げてくる。
「なんだ、まだ足りねぇのか?」
「その……久し振り、なので……もっと、欲しい……です」
「これから二三日付き合わせるっつったろ、その間にもう嫌になっちまうくらいしてやるよ」
 答えながらキキョウは内腿から手を離し手拭いで石鹸を泡立てる。たっぷりと立った泡を手に取って、内股の奥鼠径部へと手を伸ばす。陰嚢を泡で包み込み、人差し指と中指を会陰部へと滑らせるとリンドウの腰が逃げようと奥へ動こうとする。
「いっ……あ……っ! そ、そんな、ところ……っ、ああっ、あっ、いっ、ぐ……うぁっ……は、だめっ、だめで……や、あぁっ」
「全部綺麗に洗わねぇといけねぇだろ? おら、大人しくしねえときちんと洗えねぇだろ」
 やわやわと陰嚢を緩く揉みしだきながら石鹸のぬめりに任せて会陰部をなぞり行き来させると、リンドウはキキョウの肩に手を置き力を込め襲い来る快感に必死に抗おうとしたが、それは丸っきり徒労というものだった。空いている左手でリンドウの肩口から腕をそろりとなぞると、首が仰け反り顎が上がり抑えきれない声が高く漏れる。
「や、やっ、はっ、あ……また、またっ、イきそ、で……そこ、やめて、くださ……っ、そんなっ、触り方……イっちゃ、イっちゃう、から……っ!」
「イきゃあいいじゃねぇか。感じてんだろ? 何か困る事でもあんのかよ」
「かおっ……見ないで、くださ……あぁっ、はずか、しいからぁっ……」
「はぁ? 何そんな今更な事言ってんだよ。ちゃんと見せろよ、イく時のおめぇの顔がたまんねぇんだからよ」
 右手の動きを速め左手は石鹸でぬるつく首筋から胸板を下って折れ脇の下から脇腹へと至る。脇腹を指先で撫でるとリンドウの腹の辺りに力がかかりびくびくと震えるのが分かる。そろそろ限界は近そうだった。
「ほんとにっ、だめっ、だめ、ですから……っ、あっ、あぁっ、もっ、もうっ、また、またっ、また出ちゃうっ、あ、あぁっ、イクっ、イクぅっ……!」
「ちゃんと、顔見せろよ、おら」
 右手の動きは休めぬまま左手をリンドウの脇腹から顎の下に移しやや俯いていた顔を真正面に見据えられるように顔を上げさせる。リンドウは逃れようと弱々しく首を振ったが、絶頂寸前まで高められている今の状態では大した力は出ないのかそれとも本気で振り解く気はないのかキキョウの手が外れるほどの力はかからなかった。眉根を寄せて潤んだ目を細め半開きの口から浅い息を吐いては吸い何かを懸命に堪えている顔を見せられて興奮と充足感が高まり、自然に頬に笑みが浮かぶ。
「遠慮する事ぁねぇんだぜ? 出してぇなら出しちまえよ」
「あっ、やぁっ、みない、でくださ……っ、はっ、あ、も、だめっ……イクっ…………イクっ! ……っく、う、うぅっ、は、あぁ、あうっ……」
 全身を震わせて再び白濁を放ちながら、苦痛を堪えているようにも恍惚に浸っているようにも見える絶頂の瞬間の表情をキキョウの眼前に晒しリンドウはままならぬ呼吸を不規則に荒く吐いて浅く吸った。
「あーあ、こんなに汚しちまって。ここもちゃんと洗わねぇとな?」
「ひ、あぁっ! あっ、あ、だめっ、やめて、くださ……また、またっ、もう無理、ですから……っ!」
 滾りを放っても尚太さと硬さを保ったままのリンドウの怒張を右手で握り、顎から離した手で泡を取り先端に落としていく。泡は先端から竿へと滑り落ちていき、扱く右手が陰茎全体に泡を塗り拡げていく。いつもとは違うぬるついた滑らかな感触の刺激にすっかり翻弄され、リンドウは整っていなかった息を再び荒くして腰を小刻みに揺らし、堪らない様子の余裕なさげな嬌声を止めどなく喉から漏らす。
「何が無理だよ、こんなに元気じゃねぇか。もっと出してぇんだろ?」
「ああっ、だって……むりですっ、そんなに、なんども……っ、ひぁっ、あ、あぁっ、すぐっ、すぐ、またっ……出ちゃう……っ!」
「一杯出せよ、三ヶ月もしてなかったんだから本当は触ってほしくてたまらなかったんだろ? もっと感じまくって乱れてるとこ、見てぇんだよ……」
「そんなっ……やぁっ……あっ、あぁっ、そこっ、やめ……ああぁっ! もうっ、も……出ちゃ……っ、からっ……!」
 ぬめる手で亀頭を撫で回し人差し指の先で尿道口を押し込むようにしながら掻き回すと、強すぎる刺激にリンドウの胸が反る。親指と人差し指で作った輪を回すように雁首を刺激しつつ残りの指を上下させ竿部を刺激してやると、面白いように甘い声が漏れる。
「あぁ、あっ、あ、やっ、うぁっ、あっ、あぁ、も……だめっ、だめですっ……また、またイク、イっちゃうから……っ!」
「三ヶ月分たっぷり出させてやるよ、それとも後ろの方がもう待てねぇか?」
「ちがっ、ちがいまっ……うあっ、あっ、あぁっ、も、だめです……っ、だめ、もっ、あぁっ、出るっ、またぁっ、出ちゃう……っ! うぅっ……! く、ふ……っ、んんっ……ん……」
 ぱたぱたとキキョウの手や床に黄味がかった白い粘液が降り掛かり、全てを吐き出し切って茫然自失のような状態になったリンドウは最早姿勢を維持できずに壁に背を凭れさせ荒い呼吸をただ繰り返していた。
「どうしたよ、もうへばっちまったのか?」
「……こんなに、何回も……立て続けにしたら、疲れます……」
「まだ若ぇのにそんなだらしねぇ事言ってんなよ。それに、おめぇの身体の方はまだまだいけるって言ってるぜ」
 意味ありげに下を見ながら呟かれたキキョウの言葉にリンドウは視線を巡らせた。三度も達したというのに、己の昂ぶりはまだ治まる事を知らず腹に着きそうな程立ち上がっている。会わない間は(修行に夢中だったのもあるが)然程欲しいとも思わなかったのにキキョウに触れられた途端これだ、己の身体の浅ましさに強い羞恥心が湧き上がってリンドウは目線を横に逸らした。羞恥と興奮が白い肌を朱に染めて、それがキキョウの情慾を大いに唆っている事に気付けるほどリンドウは察しが良くはなかった。
「とりあえず泡流すから起きろ」
 呆れも少々混ざっているのだろうか、穏やかな口調でキキョウに言われ手を引かれて椅子の上に身体を起こす。キキョウが桶で掬った湯を肩口や背中、脚にかけて石鹸を流していくのにただ身を任せながら呼吸を整える。まだ動く気にはなれなかった。その間にリンドウの身体を粗方流し終えたキキョウは手拭いで石鹸を泡立て自分の身体は手拭いで洗っていく。手早く身体を洗い終えたキキョウは、ぼんやりとしたままだったリンドウの手を取り引いて立ち上がらせる。
「おら、折角の温泉なんだから湯船にもゆっくり浸かろうぜ」
「……何か、変な事をする気なのでしょう」
「決まってんだろ、三ヶ月もお預け食わされてたんだぜこっちは。まさかするななんて言わねぇよな?」
 言いながらキキョウはリンドウの腰を引き寄せ密着させ、熱く硬く昂ぶった己の剛直をリンドウの下腹部に擦り付けながらリンドウの背後に回した手で臀部のあわいを押し開きまだ固く閉じた秘蕾の襞を指先でゆるりとなぞる。
「あっ……あ…………」
「おめぇだって、欲しくねぇわけじゃねぇんだろ?」
「そうやって……ずるい聞き方をして……んんっ!」
 後孔に唐突に割り入ってきたキキョウの中指が焦らすようにゆっくりと円を描き狭い出入り口を押し広げようとする。その先に待っている己を失ってしまうほどの圧倒的な快楽を教え込まれている身体は否が応にも反応して、身体の内側が熱く燃え立つように疼き出す。
「ほら見ろ、こんなにひくついてギチギチに食い締めてきてよ。何だかんだ言って本当は期待してたんだろ?」
「んん、んっ……ふぅっ……あぁ、あ、あっ……」
「言えよ、欲しいって」
「は、あぁ……あっ…………ん、あぁ……ほ、ほしい、ですっ……キキョウ、さんの……っ」
「好きだぜ、おめぇのそういう素直なとこ」
 肩口に口付けながらキキョウはきつい後孔の中に人差し指を更に捩じ込み、二本の指を掻き回すように蠢かせる。指の先や節が不規則に内壁に当たり、いつどこからもたらされるか予測の付かない快感にリンドウはただ翻弄され抑える事を忘れて甘ったるい声を上げた。
「あっ、あ、キキョ……さっ、んっ、もうっ、は、はやく……っ」
「そう急かすなよ、ちゃんと慣らさねえと痛ぇだろ? こんなにギチギチじゃあ、こっちが噛み千切られちまわぁ」
「ああっ……ちからっ、ちから……ちゃんと、ぬきます、から……っ」
「駄目だ、まあおめぇが痛ぇ方が好きだってんなら考えねぇでもないけどよ、そうじゃねぇだろ?」
 下腹に擦り付けられるキキョウの昂ぶりは張り詰めてごつごつと硬く、こんなものを噛み千切るなど不可能としかリンドウには思われなかった。早くこの圧倒的な質量に狭い内側を穿たれ蹂躙され悶え酔い痴れたい、前後に与えられる刺激は頭を朦朧とさせていってそんな浅ましい思いが意識を埋め尽くしていき、意思とは関係なく求める欲望が勝手に腰を上下に揺らす。
「何だよ、そんなに待ち切れねぇのか?」
「はやく……っ、ほしいですっ……あ、もうっ……もうだいじょうぶ、ですから……っ、はっ、早く、挿れて、くださ……」
「ったく、しょうがねぇな。ほんっと堪え性がねぇなおめぇは」
 しょうがないと言いつつもキキョウの声は愉快げで、挿し入れられた指がゆっくり引き抜かれる。
「んぅっ……」
「おら、後ろ向いて、湯船入れ」
 リンドウの肩に手をかけ後ろを向かせつつ、キキョウは自身も湯船に身体を沈める。リンドウが片脚を湯船に差し入れる頃にはキキョウは湯船の中に腰を下ろしていた。一般的な一人用の湯船よりは大きめながら大の男二人が入るには少しばかり狭いのではないだろうかというリンドウの疑問をよそにキキョウは湯に濡れた手で顔を拭き前髪を掻き上げた。
「そのまま座れ」
 キキョウに背中を向けたまま湯船の中に両脚を浸けると、後ろからそう声がかかる。言われた通りにリンドウはゆっくりと湯船の中へと腰を下ろしていった。二人分の体積を受け入れる湯船からは少しずつ湯が溢れ出し、腰の辺りを湯に浸けるとキキョウがリンドウの腰に手をかけ引いて位置を調整する。
「そうだ、そのまま……ゆっくり来いよ」
 この熱い湯の中で交わればのぼせてしまうのではないか、そんなごく常識的な考えも浮かばないわけではなかったのだが、とにかく早く欲しいという欲求に埋め尽くされた頭の中ではそんな当たり前の事実は隅に追いやられてしまう。湯船の縁に手をかけゆっくりと身体を沈めていくとやがて臀部のあわいに湯の中でも存在感を失わぬ硬いものが触れる。
「あぁ……あっ…………」
「そんなに待ち切れねぇか? 仕方ねぇな、ちゃんと位置合わせろよ」
 どこか楽しげに呟きながらキキョウがリンドウの腰にかけた両手をぐっと引き、臀部を割り開き後孔にめり込み太く硬い肉茎が無遠慮に身体の奥深くに押し入ってくる。狭い虚を押し広げられ満たされ犯される久々の感覚にリンドウの身体が震え、湯船から湯が溢れるざぶりという音の中にばしゃばしゃと水面が波立つ音が混ざり込む。
「はっ、あ……なかっ……なか、はいって、きてる……っ!」
「だからっ……、言ったろ、キツいんだよっ……! もっと、緩めろ……っ」
「あぁ、あっ……んんっ、う、うぅ……っ、は、んんっ、も、もっと……奥まで…………きてくださ……っ」
 身を捩り首を巡らせ切羽詰まった声で希うリンドウの言葉に応えるように、キキョウはリンドウの両脇から腕を出して肩を掴み力を掛けて腰を落とさせより深く繋がる。リンドウの身体が沈んでゆくにつれて、浴槽からざぶりと湯が溢れ流れ出していく。半身を浸した湯も身体の中も熱く、どちらの熱に中てられそうなのかも定かでないままリンドウの不明瞭な意識が更に朦朧としていく。眼鏡のない視界は湯気も手伝ってぼやけ、聴覚は背中を預けたのキキョウの荒い息遣いで満たされ、ようやく根元まで呑み込み受け入れたものが身体の内側でびくびくと時折跳ねるのを感じ取ってそれだけで腰のあたりがずくりと疼く。一刻も早く滅茶苦茶に内側を掻き回し犯し狂わせてほしい、そんな賤しい欲求が体中を埋め尽くして支配してしまう。
「ほんっとおめぇは……奥までズボズボされんのが好きだよなぁ、食らいついて離しゃしねぇし、そんなにチンポが好きかよ」
「ああっ……は、それはっ……、キキョウさんの、だから……っ」
「どうだかな。他の奴と寝てみたら、案外そっちの方がいいかも知んねぇぞ」
「やっ、いやですっ……他の人と、なんて……っ」
「っ……、よーく分かったよ、だからそんな、締めんな……っ」
 キキョウの声が僅かに苦しげに掠れるが、それはポーズなのではないかと思われるほどその直後からキキョウが腰を激しく使い始め、リンドウの身体は浮力も手伝い上下に大きく揺さぶられ、動く度にじゃぶじゃぶと派手に水面は波を立て揺らめく。
「はっ、あっ、あぁっ、やっ、あ、あぁっ、そんなっ、ああっ、そんな、はげしく、したらぁっ! ああぁっ、あっ、あぁっ!」
「何だよ、こういうの好きだろ? 風呂ん中だと身体が浮くから動きやすいんだよなぁ」
「だっ、あっ、だめですっ、あぁっ、あっ、のぼせ……ひぅっ、のぼせちゃい、ますから……っ! あつくてっ……あ、あぁっ、そんなにっ……おくっ、おく、いっぱい……あたって、だめっ、だめです……っ!」
「だから、のぼせたら……介抱してやるっつってんだろ、安心して、のぼせていいぜ。大体……今、止めていいのかよ?」
「あぁっ、やっ、いやです……っ! もっと、もっといっぱい、おくにっ、ほしい……っ! はぁっ、あぁっ、あ、あ……いい……あぁっ、いいっ、きもち、よすぎて……っ!」
 浴槽の縁に両手をかけ自らも腰を蠢かせながら、のぼせ上がってしまいそうな熱気と体中を激しく燃え立たせる快感の波に呑まれて最早理性など一欠片も残っていないただ欲求のままに悦楽を求めるそういうものにリンドウは化してしまっていた。今はただ愛する人を全身で感じ与えられる快楽に溺れるだけで一杯になってしまっていて、他の些末事など頭に上らせる余裕はどこにもなかった。激しく求め愛されている、それが痛みとよく似た疼きを泣き出しそうなほど胸に与えて一杯にしてしまう。気紛れで自由気儘なキキョウが三ヶ月の間律儀にも他の誰とも性交渉を持たずに自分だけを抱いてくれている、こんなにも激しく求め愛してくれる、その事が渇き飢えていた心に沁み入り潤していく。身体も心も今はただキキョウを感じるそれだけの為に存在している。絡み合う脚も羽交い締めにされている腕も背中に感じる胸板や腹の感触も耳許にかかる荒い息遣いも今全身で感じている何もかもが熱く胸を滾らせ同時に満たしていく。この三ヶ月の間修行に忙殺され桃栗堂の看板に泥を塗るまいと必死で夢中すぎて気付かなかっただけで、己の身体と心はこんなにもこの人を求めていたのかと思い知らされる。一度気付いてしまえば溢れかえってひっくり返してしまいそうな程の想いがどんどん湧き出てきて止まらない。どれだけの言葉を尽くしても伝えきれないように感じられるその想いを、それでも少しでもいいから伝えたくて必死に口にする。
「はっ、あ、あぁっ、すきっ……すき、すきです、キキョウ、さっ……あぁっ、あ、あっ、キキョウさ……あぁっ、すき、すきです……っ」
「知ってるよ、おめぇは、分かりやすいからな……でも、この三ヶ月、オレの事なんざ、綺麗さっぱり忘れてたんだろ?」
「忘れてたっ……あ、わけでは、あぁっ……なくてっ、俺が、未熟、だから……余裕が、なくて、んんっ……ふ、う、ああぁっ……」
「たっぷり……思い出させて、やんねぇとな? オレがどんだけ、おめぇ以外いねぇって、思ってんのかもよ……!」
 会話の間内側を拡げるように緩やかに円を描いていた動きは次の刹那急に激しい縦の出し挿れに変わる。上半身を戒める羽交い締めに込められた力も強くなり、リンドウ自身も手を滑らせそうになりながら浴槽の縁に掛けた手を支点に懸命に腰を使う。
「っふ……うぁっ、あっ、あぁっ、あっ、あっ、そんなに、されたら……っ、もう、もうっ……!」
「まだっ、イくんじゃねぇぞ……お楽しみは、まだまだこれから、なんだからよ」
「ひぁっ、あっ、むりっ、むりです……っ! おくっ、おくにっ、いっぱい、あたってっ、ああぁっ、だめっ、だめです……っ、も、イきそっ……イっちゃうっ、ああっ、イきたいっ、もうっ、おねがい、ですから……っ!」
「ほんと、堪え性がねぇよなぁ、いいぜ、イけよ……っ!」
 幾度となく力強く最奥を穿たれ、最早何も考える事もできずにただ膚の感触を求めて脇の下から回されたキキョウの両腕に両手で触れる。派手な水音を立てながら大きく上下に揺さぶられ、絶頂の時に近付いた身体はぴんと張り詰めていく。
「はぁっ、あっ、あぁっ、もっ、んっ、んん、あ、あぁっ……あ、あ、あっ、もっ、もうっ、イクっ……! イク、イクっ……――!」
「……っ、ぐ、くっ…………ふ……」
 絶頂に達し意識が白く弾けると共に身体の内側の奥底に熱い迸りが放たれ、ぴんと伸びた脚で水面を蹴って水音を立て全身を震わす。久々の交わりはあまりにも激しく甘く、身体も心も蕩けきってしまい今はただ自分が代えがたい幸せを感じているのだということしか分からない。リンドウの腹の中に精を放ちきってもキキョウの肉茎は萎える様子を見せず、太く硬い質量が相変わらず内側を押し広げている。
「は……あ、あぁ……っ」
「久し振りで、興奮してんのか? 中、凄ぇぞ……こんなに絡み付いてきてよ……」
「あぅ……んっ…………離したく、ないです……」
「何しおらしいこと言ってんだよ、そんなおねだりまで修行で覚えてきやがったのか? でも駄目だ、このまんまここでしてたらオレまでのぼせちまわぁ。おら、立てるか?」
 確かにキキョウの言う事は正しかった。現にリンドウは既に今のぼせかけていて、湯の熱さと体の内側から湧き上がる熱ですっかり頭は茹だり意識が混濁しかけている。このまま湯船に浸かっているのは賢い選択とは言い難いだろう。ゆっくりと立ち上がるキキョウの動きに合わせて湯船の縁に手をかけ力を込め、力の入らない足腰をどうにか持ち上げる。片脚を湯船から抜くと、キキョウは密着していた腰をゆっくりと離し内側を埋めていた熱も引き抜かれていく。続いて隙間から入り込んでいた湯が広がった後孔から漏れ出し、奥に大量に吐き出された白濁がどろりと腿を伝う。湯船の外に出て縁に両手をかけて膝を突き身体を支えながらも、内側から失われた熱がただただ恋しくてならずキキョウを見上げる。まだ足りない、もっとその熱さで身体を冒され何も分からぬようになってしまいたい、もっと激しく犯されたい、そんな口にはとても出せないような欲求が意識を支配してしまって元より眼鏡がなくてはっきりしない視界を潤ませ滲ませる。
「そんな顔しなくてもまたすぐ挿れてやるよ、足りねぇんだろ? まぁそうじゃなくてもオレが満足するまで付き合ってもらうけどよ」
「はっ……はやく、来て、ください……キキョウさんの、もっと……欲しい……っ」
「そんなに急かすなっつってんだろ、堪え性なさすぎだぜ」
 欲求に息を乱し物欲しさの余り腰を揺らす己の姿はあまりにも浅ましいだろう。分かっているのに身体は勝手に動いてしまう。羞恥に顔を熱くし目を閉じると、キキョウが湯船から脚を抜く音がしてそのまま数歩歩き、どうやらリンドウの背後に回り込んだらしき気配が感じられた。腰骨にキキョウの手がかかり下半身を持ち上げようとする。
「脚立てろ、早く欲しいんだろ?」
「うぅっ、は……はいっ……」
 どうにか湯船の縁にかけた両腕を伸ばして脚も伸ばし、腰を心持ち下げてキキョウを待ち受ける体勢をとる。挟持より恥より求める心の方が大きすぎて待ちきれぬ期待に羞恥は掻き消される。早く内側を、足りない部分を満たしてほしい。肌を重ねるまでは自分が欠けているなど知りもしなかったのに、熱が虚を埋める度に満たされる悦びを思い知らされてしまう。己に足りぬものを何もかも持っているこの人はそれでも欠けていて、互いに強く求め合っている。まるで割符のようにぴたりと当て嵌まり合わさる、そんな感覚をキキョウも抱いた事があるのかを聞いた事はないけれども、その感覚をきっと感じているだろうと心のどこかが聞かずとも信じていた。
 やや膝を曲げ脚を立て突き出す体勢になった臀部に熱さと硬さを保ったままのものが擦り付けられ、先程の交わりで拡げられていた出入り口に容易に先端が入り込んでくる。待ち望んでいたものをようやく与えられる歓びともっと深く深く交わりたいという欲が息を荒くする。
「は、あぁっ……あ、あっ、はっ、はやく……っ、もっとっ……きて、ください……っ」
「今日はいやに積極的じゃねぇか、どこでそんなねだり方覚えてきた?」
「こんな、ことっ……キキョ、さんとしか……しないっ……んん、んっ……」
 先端が浅い所を行き来し始めて確かな、しかしながら膨れ上がった求める欲簿を満たすにはあまりに物足りない快感がじわじわと性感を高めていく。もっと奥まで深く強く、求める心ばかりが膨れ上がっていってしまう。
「あぁっ、あ、あっ、じらさっ……じらさ、ないで……くださっ……はぁ、あぁっ、あ、あっ、もっと、おくまで……して、ほし……っ」
「奥? この辺か?」
「ひっ、あっ! あっ、あ、そこっ、そこ、だめ……だめです……っ! あっ、あ、あぁっ、やっ、ああっ、またすぐっ、すぐ……だめっ……だめです、から……っ」
 無遠慮に半ばまでぐいと内側を押し広げ突き入ってきたキキョウの肉茎が一番弱い箇所を的確に責め立てていく。次々に襲い来ては意識と理性を攫っていく波濤のような快感の波ともっと奥まで繋がりたい欲求がせめぎ合って脚が震え、最早抑えようとする事に気すら回らずただ感じる快感のままに甘ったるい嬌声を上げる。
「ほんっと、いい声で啼くよなぁ……いいぜ、もっと啼けよ」
「はっ、あぁっ、やだっ、あっ、あ、やぁっ、あ、あ、あぁっ、そこばっかり、したら……っ、も、イクっ、イっちゃいます……からっ……」
「駄目だなんてくだらねぇ嘘つくなよ、そんな事言ってもイきてぇんだろ? 今日は泣いてやめてくれって言うまでイき狂わせてやるよ」
「やだっ、あっ、あぁっ、おくっ、おくでっ……イきたい、からっ……もっと、う、あ、あぁっ、おくまで……して、くださ……っ、おくにっ、ほしい……っ!」
 深く繋がりたい欲求の強さのあまりに自然と淫らに腰を突き出し深く迎え入れようとしても、キキョウはそれに応じることはなかった。もっともっと奥深く繋がり、目も眩むような充足と陶酔を味わいたい、その果てしない欲だけが際限なく広がって意識を覆ってしまうのにその欲求は満たされないまま絶頂の瞬間がどんどん近付いてくる。
「後でたっぷりしてやるよ、ここでもイけんだろ?」
「やっ、あっ、おくにっ、おくに、くださ……っ! あぁっ、あ、もっ、もうっ、イきそっ……だからっ、はっ、だめっ、もっ、ああっ、あっ、あっ、あ、あ、イクっ……だめ、あ、あぁっ、またっ、またイクっ……イク、っ…………――!」
 許容量を超えた快感に押し上げられ続けた意識が高みに登りつめ、開いているのか閉じているのかすら分からない瞼の裏の視界は真っ白に染まる。全身の筋肉が張り詰めて脚が震え、床の上で危うく滑りかける。前立腺を刺激され続けていつの間にか限界まで昂ぶっていた陰茎から白濁が床へと吐き出され、その度に絶頂の上に無理矢理更に押し上げられるようなこれ以上は限界で進んでいけないという逡巡とこの先まで踏み出していきたい好奇心とまだこの先があるのかという漠然とした恐怖がぼんやりとした意識の中で浮かんでは消える。だがそんな余韻に浸っている暇など与えないとばかりにキキョウの両手に腰骨を鷲掴まれ力任せにぐいと引き寄せられる。根元まで押し込まれた剛直は勢いよく引き抜かれ抜け切る寸前でまた押し入ってくる。
「ひぁっ! あっ、あぁっ、うぁっ、あっ、もっ、あうっ、まだっ、イってる、からっ……そんなに、したら……っ、あぁっ、おくっ……おくにっ、あたって……っ、だめっ、だめですっ……ああぁっ、あぁっ、あ、あ、ああぁっ!」
「あんなに欲しがってたじゃねぇか、望み通りガンガン突いてやるよ、奥」
「あぁっ、あっ、も、イってる、のに……っ! だめ、だめですっ、うぅっ、あ、はぁっ、あっ、あ、もうっ、むりっ、ああっ、あっ、も、やめっ……あ、はっ、はぁっ、う、ゆるし、てくださ、あぁっ……」
 望み通りに激しく奥底を穿たれ、絶え間なく強烈な快感を与えられ続け引いてくれない絶頂の悦楽の只中でリンドウは更に更に高く押し上げられていく。これ以上は無理だ、身体がそう悲鳴を上げてもリンドウの意志など関係なく限界を超えた快感が注ぎ込まれ続け、比喩ではなく爆発してしまうのではないかという空恐ろしさに囚われる。これ以上与えられれば何かが弾け飛んでしまいそうで、それなのに逃げ出すことができない。限界だと身体が訴えるのと同じだけ意識が押し上げられていく恍惚と陶酔がそれこそ耐えきれないほどの悦楽をもたらして、この先を見せられることをどこか望んでしまってすらいる。恐怖と希求が胸の内で混ざり合わずに均衡して存在していた。
「やぁっ、はっ、あ、ああっ、う、んんっ、ふ、は、はっ、ああ、ああぁっ、ほんと、に……も、むり、ですから……っ、あぁっ、あっ、も……おかしく、なる……っ」
「いいぜ、おかしくなる程感じまくりゃオレ以外の奴とはもうできねぇ身体になるだろ? 正気に戻った時のおめぇ眺めてんのも面白ぇしな」
「あぁっ、いやです……っ、そんなこと……しなくてもっ……キキョ、さんいがいの、ひととなんて……しなっ……も、あっ、は、は、ああぁっ、おくっ……おくっ、きもち、いい……っ! あっ、いいっ……あぁっ、だめです、もう、もうっ……へんに、へんになっちゃ……あぁっ、あっ、あっ、んんっ」
「おめぇと会えねぇ間オレがどんだけ気ぃ揉んでんのかこれで少しは分かったか? オレだけのもんだ、誰にも渡さねぇ……!」
 絞り出すような声でキキョウはそう告げ、浴槽の縁にかけたリンドウの両手首を掴み後ろへと引っ張った。上半身と腰が後ろへと押し付けられ叩きつけられる律動は激しさを増す。思考する力など今のリンドウに最早残っているはずもなく、ただただ全身でキキョウの激情を受け止めるしかない。この人に独占されたい、心からそう思う。どこか斜に構えた皮肉げで気怠げな普段の言動からは想像も付かないほど熱く重く深い想いを宿している人だから、今まで誰にも受け止めて貰えなかったのであろうその気持ちを全て受け止めたい。何でもできるのに、どうしようもなく不器用で繊細な、まるで子供のように純粋で残酷な美しい心を宿した想い人。その愛を、リンドウも独り占めにしてしまいたい。
「あっ、あ、は、う、んっ、あっ、あ、あぁっ、あっ、あっ、あっ、すきです……キキョさ、がっ……すき……、キキョさ、としかっ……ぜったい、しません、から……っ」
「素直ないい子じゃねぇか、じゃあご褒美をやんねぇとな?」
 ふっと笑んだ息遣いを背後に微かに感じ、それを合図にリンドウの手首を掴んだ手に一層の力がこもり、抽送は増々激しさと速さを増した。頂点に達し解放される事を目指すキキョウの息遣いは荒くなっていき、その時が近い事を予感させる。そして身体の奥底を突き上げられ穿たれる強烈な快感がどんどん注ぎ込まれる事によってリンドウもまだ見ぬ高みへと押し上げられていく。
「ああっ、あっ、イクっ……またっ、またイっちゃう……っ! はげし……っ、いいっ、きもち、いい……っ! あっ、あっ、あっ、はっ、あっ、あっ、あぁっ、うっ、んんっ、イクっ、イきそっ……また、またイク……っ!」
「これで、イけよ……っ! ぐっ……く、うぅっ……!」
 腰を密着させ最奥を突きながらキキョウが達しリンドウの身体の奥底へと熱い精の迸りを次々放っていく。身体の奥に感じる熱に浮かされてリンドウも今日幾度目かももう分からない絶頂へと飛ぶ。背筋が後ろへ反り、がくがくと脚が震えて爪先立ちになる。
「ああぁっ……――! あぁ……あっ…………あ、う……うぅ……っ、は、あ、あぁ……っ」
「中に出されて、イっちまうんだから、ほんっとドスケベだよなぁ…………んんっ……おめぇがあんまり締め付けるもんだから、まだ出るぜ……」
 キキョウの吐精は後少しの間続き、内側に放たれる熱を感じる度にリンドウは小さく身震いし軽く達した。ようやく縛められた手首を解放されると整わぬ息のままゆっくり前へと崩れ落ち、床に頬を付け右向きに横たわる。意識はまだ恍惚と陶酔の内にあり、視界に入る現世は眼鏡がないせいなだけではなくぼんやりと滲んで見えた。
「しょうがねぇな、おら、ちょっとうつ伏せになって、膝立てろ」
 キキョウの言葉はかろうじて耳に入ったので、まだ思うように動かない身体をのろのろと動かしリンドウは腹這いになり、キキョウの手も借りて膝を立て腕を支えに上体も起こした。キキョウは手桶に湯を汲み、己のものとキキョウのもの二人分の精にまみれたリンドウの身体を最初は背中、臀部から太腿にかけて、それから姿勢を変えさせ腹側と丹念に洗い流し床を汚した精液も流していく。本来ならば腹を壊してはいけないから洗い流さなければいけないが、中に残ったキキョウの精も洗われてしまうのはただでさえ一滴も漏らしたくないのに惜しい、身体を洗われながらそんな事をぼんやりとリンドウは考えていたがキキョウは中に残った精を掻き出そうとはしなかった。最後に自分の体にも湯をかけ簡単に洗い流し、上がるぞと一言口にするとキキョウは手を差し出してきた。息は大分整ってきたとはいえ身体の感覚はふわりと浮ついてまだ鈍い、大人しくキキョウの手を借り身体を起こして立ち上がり浴室を後にする。
 脱衣所に戻ると先に身体を拭いたキキョウが自分の身体を手早く拭いたバスタオルを籠に放り込んで新しいバスタオルを取り出し、まだぼんやりしたままのリンドウの身体を拭き始めた。拭き方はふわりと優しく丁寧で、いつになく甘やかされているような不思議な気分をリンドウは覚えた。普段はこんなに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる人ではないし、そういえばキキョウと会う前には胸を覆っていた鬱々とした気分もすっかり消え去っている。もしかして、合流してから今までの事は全部キキョウなりに甘やかしてくれているのだろうか、随分と手荒な甘やかし方もあったものだと笑みが零れる。
 リンドウの身体を拭き終えたタオルをキキョウが籠に放り込んだので床に脱ぎ捨てられていた下着を拾おうと屈みかけると、そのままでいい、とキキョウの声がかかった。どういう事かと思い見上げるとキキョウはつまらなさそうな顔でリンドウを見下ろして自分も身体を屈め、背中に覆い被さってきた。双丘のあわいに押し当てられたものはあれだけ熱を吐き出したというのにまだ熱く硬かった。
「まだ満足してねぇんだよオレぁ。着たら脱がす手間がかかんだろ」
 耳許で囁かれる熱っぽい声は艶を孕んでいる。擦り付けられる硬く太いものの熱さがまだ先程の交わりの熱を残したままの肌にじわじわと染み入ってきて、その太さも形も覚えている後孔は欲しがるように(事実欲しがっているのかもしれず)勝手にひくついてしまう。
「……あれだけ、したのに……」
「おめぇが三ヶ月も面ぁ見せねぇからこうなるんだよ、自業自得だ。もうへたばっちまうほど柔でもねぇだろ」
「それは、そうですが……まだ、日も高いのに……」
「そんなの今更だろ。それにどうせこの宿は釣り客ばっかだから昼間は人が少ねぇんだよ。人払いも済ませてあるし安心しな」
 いつの間に、とは思ったがそれは口にしなかった。些細な問題だし、キッチンカーでの寝起きが日常になっていて宿を使わないリンドウと違いキキョウは場馴れしていてこういう場では万事都合良く取り計らってくれるので、こういった宿で過去に誰と何をということにさえ目を向けなければ頼りになる。過去が気にならないといえば嘘になるが、もう終わった事なのだし今はリンドウだけを見てくれている。それだけで充分だしそれ以上を望むのは贅沢のようにも思われた。というよりは、何もかもを独占したいという思いのままキキョウの過去の一切まで何もかもを引き受けてしまうのは今の自分にはきっと荷が重いだろうという予感があった。
 しばらくの間焦らすように高ぶりを擦り付け、リンドウの息が乱れてきたのを確認するとキキョウは身体を離しリンドウの手を引いて脱衣所を出た。部屋にはリンドウの知らぬ間に布団が引いてあって、そういえば先刻布団を敷きに来た女中に声を聞かれているかもしれないとキキョウに言われた事を思い出す。あの時はなんで真っ昼間のこんな時間に布団をという当然の疑問も浮かべられない状態だったが、最初からキキョウはこうするつもりだったのだろう。予定調和のように掛布団を足元側へ引き剥がし、噛み付くようにリンドウの唇を奪ってきて堪えきれないといった様子で性急に舌を絡め、口蓋や頬の裏、歯茎の裏まで万遍なく貪っていく。露わになった敷布団の上に横たえられて脚を割り開かれ、日当たりがよく明るい部屋の中で恥ずかしい部分をキキョウの眼前に晒す姿勢になる。
「そんなに……見ないでください」
「それも今更だろ」
「恥ずかしいものは恥ずかしいんです……何度見られても、慣れられません」
「三ヶ月も経っちまうと痕も綺麗さっぱり消えてんなぁ。また付けてやらねぇとな」
 リンドウの言葉になど耳を貸さず、股の間に顔を埋めたキキョウはリンドウの内腿をつぅっと舌でなぞると強く吸い付いた。
「くぁっ……あっ、あぁっ…………あっ、あっ、やめ、やめて、くださ……っ、痕っ……付けない、で……っ」
「いいじゃねぇか、こんな場所他の奴に見せるわけじゃねぇだろ?」
「今回の修業でも……最初の頃…………人と一緒に風呂に入れなくて……困ったので」
「しばらく他の店にゃ行かねぇんだろ、なら問題ねぇじゃねぇか」
「それは、そうですが……あぁっ、は、あっ……そんなに、いっぱい……っ」
 青白くすら見えるリンドウの内腿に、次々に鮮やかな紅の痕が付けられていく。痕が増える度に淫らな声が漏れ腰がうねり、甘く膨らむに留まっていたリンドウの男茎はすっかり大きく膨らみはっきりと勃ち上がっていた。顔を上げたキキョウがそれを指先でゆるりと撫で上げる。
「おら、あっという間にこんなんなってるぜ、嫌な割には随分感じてんだな」
「そんな……意地悪を、言わないでください……」
「じゃあ認めろよ、オレにこういう風にされるのが好きだって」
「……っ、好きです……もっといっぱい、してほしい……あなただけの、ものだから、もっと、あなたが欲しいです……」
 熱に浮かされたようなリンドウの言葉にキキョウは返事を返さなかった。代わりに身体を前に移動させ、脇腹から腹、胸に肩口と唇を落とし強く吸い付きリンドウの白い肌にくっきりと所有の痕を残していく。後で困る事になるという理性がまだ消えずに残ってはいるが、それも所有される事への目も眩むような歓びに霞んで薄ぼんやりしてしまう。
 再び噛み付くように荒々しく深い口付けが落とされ、その甘さに浸る間もなく膝裏を掴まれて腰が浮き、二度の交わりですっかり受け入れる事に慣らされた後孔が熱く硬く滾った先端をいとも容易く呑み込んでいく。
「んんんっ! んっ、んんっ……ん……んむっ、んん……」
 人払いをしているとはいえ真っ昼間の旅館での情事だ、聞かれてしまってはという意識が働きどうにか声を抑えようとするもののどうしても漏れ出てしまう。あっという間に根元まで受け入れさせられ内側に感じる太く硬い存在感に体の芯が熱く甘く疼いていく。ねっとりと舌が絡み合い唾液が混ざり合い、それだけで意識は蕩かされてしまいそうなのにキキョウの腰がゆっくりと前後しはじめて緩やかに深く抉り穿たれ、上下から与えられる甘やかな快感が身体の隅々までをどろどろに溶かしてしまうような感覚に襲われる。やはり今日は甘やかされている気がする、ふと過ぎったそんな思考も悦楽の波の前にすぐに霞み掻き消えた。
 身体の奥底が熱く燃え熱が湧き出し温泉で洗い清めたばかりの肌に汗が滲む。緩やかなキキョウの腰使いがもどかしくて背中に手を回し両脚で腰を引き寄せ己の腰を淫猥に蠢かせてもっと深く強く迎え入れようとするが、抽送の速度は変わらなかった。呼吸もままならない中で緩やかに身体が高められていって、もっと欲しい、もっと感じたいという欲求が体中を隅々まで埋め尽くしていく。だがそれを口にしようにも口は塞がれてしまっている。溢れるほど体中を埋め尽くした欲求をどうにか伝えようと浅ましく腰を振りくねらせながら唾液を貪り口腔内の粘膜を盛んに擦り合わせ甘やかな陶酔に浸る。緩慢に高められるもどかしさに眉根を寄せると、息継ぎの為に口を離したキキョウがふっと笑んだ。
「これじゃ物足りねぇって面だな。今のおめぇの顔どんなか見せてやりてぇぜ、すげぇいやらしい顔してんぞ……」
「ああっ……あ、だって……っ、これじゃっ……足りない……っ!」
「あれだけしたのにまだ足りねぇのか? どうして欲しいのか言ってみろよ」
「あっ、もっ……もっと、強く、してください……もっと、めちゃくちゃに、されたい……っ」
「どうしようもねぇドスケベだな、でもいいぜ、望み通りにしてやるよ」
 愉快げにくっくと喉を鳴らすとキキョウは頭を下ろしてきて再び唇を合わせ、リンドウの両肩を鷲掴んだ。再び口腔内をじっとりと犯しながらリンドウの肩にかけた手に力を込め、そこを支点に今までの緩やかさが嘘だったかのような力強く激しい律動を開始する。
「んっ! んむっ、んぁっ、ん、んんっ、んっ、んっ、んっ、んん……っ!」
 息を奪われながら望んだ通りに滅茶苦茶に中を掻き回され、それまで緩やかな速度で登っていた上り坂を急激に押し上げられていく。遠慮も容赦もなくごりごりと身体の内側奥深くを抉り擦られる圧倒的で鮮烈な感覚が意識を一色に塗り替えて、白なのか青なのか黄色なのかも最早判別の付かないその色が瞼の裏で明滅する。与えられる快感を追う事に夢中になりすぎて、己の鼻から漏れる声の大きさにももう意識は向かなかった。激しい抽送のリズムに揺さぶられて身も心も飲み込まれ、眼前の執拗に唇を求めてくる人の事しか考えられなくなる。眼鏡がないから目の前の人がどんな表情を見せているのかは定かではないけれども、感じてくれているのだろうか満たされているだろうか、知りたくて必死に脚で腰を引き寄せ舌を絡ませる。キキョウの背中に回した腕に力がこもるのは、絶頂が近付いてきたからだけではない。自分とはまるで違う他人だから惹かれもするしこうして交わることもできるけれども、こうしている間だけでも一つに混ざり溶け合ってしまいたい、そんな詮無いことを希求してしまう。今だけでも同じ思いを抱き感じているのだと信じたくなる。
 息継ぎの為か口を離したキキョウはしかしながら再び口付けを落とそうとはせず顔を上げたまま荒い息を吐きながら低く呻き、激しく突き上げていた腰の動きも止まってしまう。
「くそっ……中、そんなにいやらしく動かしやがって……お陰でもう、イっちまいそうだ……」
「中でっ……イって、ください……俺も、もうっ……だから、一緒に……イきたい……っ」
「だからっ……そんな、締めんじゃねぇよ……っ! くそ、もう、限界だっ……!」
 吐き捨ててキキョウはリンドウの肩を掴んでいた手を離し両脚を肩の上に抱え上げて腰を掴んで引き寄せより深く繋がり、そのまま力任せに動き始めて情交を再開する。奥底を力強く穿たれる度毎に強い快感の波と満たされる歓びに全身が包まれていく。
「んんっ、んっ、はっ、あ、キキョ、さっ、んんっ、キキョウ、さっ……んっ、んんっ、んっ、んぁっ、あ、すき……っ、すきです……っ」
「声、聞かせろ、我慢なんかすんな」
「だって……んん、んっ、外に、聞こえる……からっ……んんんっ」
「誰も聞いてねえっつったろ。いいから聞かせろよ、オレので感じてるお前の声……」
 奥深くを犯され続ける悦楽の波に翻弄される中で耳の中に忍び込んでくるどこか切羽詰まったような切なげな低い声は理性の箍を外すには充分だった。抑えきれなくなった声が喉からどんどん漏れ出し始める。
「ふっ、あ、あぁっ、あっ、あっ、ああぁっ、そんなっ……いっぱい、されたらぁっ……あっ、あっ、あぁっ、は、あ、あぁっ……きもちっ、きもち、いいっ……いい、あ、あぁっ、あっ、あっ、ん、は、あぁ……キキョ、さ……キキョウ、さ……っ!」
「いいぜ、もっと、聞かせろよ、声……もっと、おかしくなっちまうくらい、感じろよ……」
「だめです……っ、だめ、あぁっ、あっ、や、あっ、ああぁっ、あっ、あっ、もっ、もうっ……だめっ、イきそ……っ、うっん、んぅっ、も、イクっ、イクっ……!」
「いいぜ、イけよ……オレも、もう……っ」
 最奥を穿つ律動のリズムはどんどん速まりリンドウの呼吸を支配する。どこまでもどこまでも高みへと手を引いて連れて行かれる感覚があって、どんな高みでもどこまでも共に、そんな痛みによく似て決して痛みではない願いがまるで痛みのように胸を締め付ける。どこまでも行きたい、あの道の彼方まで、あの星より高みに、この人と共に。それに相応しい自分に一日も早くなりたくて焦ってしまうけれども、そんなに焦ることはないとばかりにこの人はこうしてどろどろにリンドウを甘やかして焦りも鬱屈も解きほぐしてしまう。今この瞬間は何も考えられずただ甘やかされるままに、一つに溶け合いたいという願いだけを抱いて決して混じり合わない人の与える快楽の波に身を委ねる他の事はできなかった。
「く……もうっ、限界だ……、出すぞ……っ!」
「は、あぁっ、あっ、きてっ、だして、くださ……っ、なかに、いっぱい……っ!」
「出して、やるよ、一杯……っ! ――……っく、うぅっ、は、あぁ……」
 力強く腰を引き寄せられ最奥を突かれ、内側で一際大きく膨らんだ肉茎が爆ぜて震えリンドウ自身すら触れることのできない身体の奥深くに熱い滾りを迸らせる。幾度も浴びせられるその熱さに震え身体を強張らせ、リンドウもめくるめく絶頂の歓喜に飛ばされくるめく。
「あぁっ…………あ、あぅ……っ、ん…………」
 キキョウの肩から脚が降ろされ、身体を倒してきたキキョウが目に掛かった前髪を梳き上げ頬や唇にそっと口付けてくる。それに応えるように首を巡らすと唇が重なり、緩やかで甘やかな口付けが交わされる。気怠い甘さをしばし堪能した後口を離したキキョウがくすりと笑いを漏らす。
「まだいけんだろ? 三ヶ月分、きっちり付き合ってもらうからな」
「……もう、勘弁してください、少し……休ませてください……」
「オレがこんなもんで満足すると思ってんのか? 時間はたっぷりあるんだ、まだまだこれからだぜ?」
「そんな…………もう、無理……です」
 風光明媚な渓流の風景を五感で味わいながら散歩する楽しみもどうやら今回は叶いそうになかった。この調子では離してもらえず宿泊中にこの部屋から出られるかどうかも怪しい。甘やかされているような気がしていたがやはり甘えられているのだろうか、どちらも違うようなどちらも正解なような、正解などなくていいような心境を覚え、リンドウは苦く笑いながら溜息を一つついた。

コメントを送る

コメントはサイト上には表示されず、管理者のみ確認できます。