その想いは海に沈めた

 大丈夫? と聞かれて我に返る。気付けばランチが怪訝そうな顔をして顔を覗き込んでいた。ああ大丈夫だ、と手短に答えるとランチはまだ心配そうな顔をしながらも去っていった。
 レヴンの休日、急ぎの仕事もなかったのでリンドウは木陰で本を読んでいた。だがいくら目で字を追えども内容は少しも頭に入ってこなかった。気付けば昨夜の事を思い返してあれはなんだったのかといくら考えても答えのない問いを浮かべていた。
 昨晩何となく寝付けずに夜の海を眺めているとキキョウがやって来て、何も言わずに肩を引き寄せそっと口付けると、それだけで何も言わずに帰っていった。
 いつもの気紛れなのだろう。だけれども、そんな風に触れられると勘違いをしてしまいそうで怖かった。嫌われている、憎まれている。そんな風に思っていたから、そんな触れ方をされても戸惑いしかなかった。
 いつしか芽生え育った想いを口にすることはないだろう。
 兄弟子を愛している。その想いは海に沈めた。

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