僕らは臆病だった
俺たちは臆病だった。たった一言を口に出せば何かが変わっていたのかもしれない、なのに今の関係を壊し崩してしまう事が怖かった。変わる事を恐れた。
戯れに抱かれる身体だけの関係。そんな儚い関係でもそれでも、バランスを崩す一言を発してその関係さえ失ってしまうのが怖かった。
幾度も絶頂に飛ばされまだぼんやりとした意識が深い脱力感と共にある。指先を動かすのさえ厭わしい。そんな状態で静かに息を吐くだけのリンドウの頬にどういう気紛れかキキョウは優しい口付けを落とす。
こんな風にされるのは好きではない。こうされたいと願っている自分の胸の内を自覚させられてしまうから。玩具の様に手荒に扱われた方がどれだけまだましだっただろう。愛されてなどいないと思えばどんな扱いにも耐えられる。だけど愛されていると錯覚してしまえば、抑え切れない涙が溢れてもう何に耐える強さも失ってしまいそうだった。
お前なんかどうとも思っていない、ただの玩具だ。その一言を言ってくれるだけでいいのに、それをキキョウは与えてくれない。どんなつもりで自分を抱いているのか、その胸の内はリンドウには知り得なかった。
ただ一言、言葉さえあれば。その願いが叶わないまま唇は重なり、滑り込んできた熱い舌にぐちゅぐちゅと淫らな音を立て口内が犯される。もうすっかり力を失っていたと思っていた筈の身体は甘い刺激に現金にも敏感に反応して、感じさせられるままに再び火照り始め時折ぴくりと肩が跳ねる。あれだけしたのにまだ足りないのだろうか。困惑と共にあるのはどんな形にせよ求められているという充足感だった。それがどれだけ歪んでいても、この一時だけでも胸は満たされていく。
深く長い口付けはいつ果てるともなく続く。まるで愛する者にする情熱で為されるかのように。きっと違う、それは分かっているのに、こんなにも念入りに丹念に口の中を愛されてしまうと、心も求められているのではないかという錯覚が生まれる。こんな錯覚をしてしまう事が嫌だ、愛されてなどいないと思い知らされるのが何より怖い。胸元を撫ぜるキキョウの指先は皮膚の薄い箇所を捉え、口の中に与えられる刺激だけで硬く立ち上がってしまったものをいいように弄り回していく。鼻から漏れる甘い声は止めようとしてももう止める術はなく、キキョウのもう片方の手が触れるか触れないかの力加減でそっと触れる脇腹の感覚がたまらないもどかしさを生み出していく。
全てを曝け出してしまって、身体の事は内側さえも何もかも知られてしまっている。だけどキキョウはリンドウの心など知ろうとはしない。単純に興味が無いのか、もしかしたら知るのが怖いのか、理由は分からないけれどもとにかく知ろうとはしない。それでいいのだとも思い、もし知ろうとしてくれたなら、とも思う。
もしキキョウが知ろうとしたならば、リンドウはどうするのだろうか。きっとバランスが崩れてしまうのを恐れて身動きが取れなくなってしまうだろうと思った。だから、いい。このままでいい。戯れでも気紛れでも身体だけでも求められているならば、ただそれだけでいい。それ以上を求めてその結果もし今のこの儚い関係さえ失ってしまったら、それがただ恐ろしかった。
「うつ伏せんなれ」
口を離したキキョウが低い声で呟き、リンドウは気怠く重い身体を動かして身体をひっくり返しうつ伏せの体勢になった。動くと先程中に放たれたものが漏れ出してきて会陰部をどろりと伝う。三回だったか四回だったか、中に放たれた回数をもう正確に覚えていない。
うつ伏せにベッドに寝転んだリンドウの上に身体を重ねるとキキョウは硬く熱を持った陰部をリンドウの臀部の割れ目へと擦り付ける。肌に感じる熱さと感触の硬さと耳元に響くキキョウの荒い息遣いにどうしようもなく興奮させられ、肩を震わせて甘い声を漏らしてしまう。
「どうだ、欲しいか?」
「……欲しい、です…………」
「あんだけイっといて、まだ欲しいのかよ。ほんとやらしい身体だな」
低くくぐもった笑い声が耳元にかかる。かかる息の温度にすら敏感に反応を返してしまうのだから、自分で嫌になるほど浅ましく淫らな身体だった。
ふっと背中の重みが消え、すぐ後に後孔に熱く硬い滾りが宛てがわれる。遠慮会釈なく押し入ってきて身体の内側を犯し満たすその熱に、胸が痛み疼く。
あなたを愛しています、リンドウはその言葉を飲み込んだ。
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