寝ている相手にキス

 疲れ切ったのかすぅすぅと安らかな寝息を立てて隣で眠る顔を見つめる。こいつはオレがどんな気持ちでこうして寝顔を眺めているか知らないのだろう。そう思うと面白くないような思い知らせてやりたいような気持ちになり、軽く鼻を摘む。
「んぐっ……んん……」
 低く呻いて首を左右に振りキキョウの指を振り解いて、起きる様子もなく静かな寝息を吐き続ける。歳の割には老けた顔とよく言われるようだが、こうして見ればまだ頬もなだらかに丸く、いつも力の入っている眉が緩んでいる様子などいかにも少年めいて見える。耳の付け根に手をかけ顔を上向かせ、そっと静かに唇を触れ合わせても一向に起きる気配はなかった。
 軽く啄み柔らかな唇の感触を楽しむ。こいつは気付いているだろうか、いつの間にか全てを奪い尽くしたいと思ってしまっている事を。きっと気付いてはいないだろう。そういう所は薄ぼんやりした奴なのだ。
 リンドウが眠ってしまっている今は何を偽る必要もないから、壊してしまうのを恐れるようにそっと優しく触れることしかできない。怖いのかよと自問して、答えが一つしかない事を確認する。自分がひどく臆病なのだという事を痛感させられる。
 このままずっと寝てりゃいいのに、そうすればこのままいつまでも。そんな愚にもつかない考えが浮かんで消えた。

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