永遠なんてない

 永遠なんてない。そんなものはどこにもありはしない。天を見上げればいつもそこにある太陽や星ならば永遠なのかもしれないが、少なくとも人の世には永遠はない。
 昔から数多の権力者が望み願った不老不死が叶った例はない。少なくとも必ず人は死ぬ。些細な事で刻々と感情は変化し、永遠を誓って結ばれた男女の愛が儚く消える事も決して珍しくはない。
 だからいつも終わりの事を思い恐れてしまう。終わるくらいならば始まらなければいいとさえ思ってしまう。だがもう始まってしまったものは、続けるか終わるかしか選択肢がない。
 ぼんやりとこちらに向けられた眼の辺りは先程の熱が残っているのかほんのりと赤い。まだ足りない、そんな思いがこみ上げてきて鼻先に、頬に唇に口付けを落とす。
「少し、休ませてください……」
「あれくらいでへばっちまったのか? そんな柔じゃねぇだろ」
「身体に、力が入らなくて……」
 強い快感の余韻のせいかいつもの張りがない声はどこか甘さが残っていて、もっと啼かせてやりたくなる。今のこの時間こそ永遠の真逆、刹那の極みだとふと思い苦い笑いが漏れる。一瞬の悦楽、儚い余韻。確かなものは身体の熱だけ。そんな不確かなものでしか人は愛を確かめ合えない。
 火照った頬にそっと掌を当てると、嬉しげに目を細め微笑む。どちらかとえいばリンドウはこうした穏やかな触れ合いを好む傾向があって、優しく触れると少し照れくさそうに嬉しげに笑む。普段は凛とした表情を崩さない分、そうした時にしか見られない柔らかなリンドウの笑顔がキキョウも嫌いではなかった。
 これは恐らく、愛する者にしか見せない表情だ、そう思う。
 だから、そんな表情を見せられてしまうともっと貪り尽くしたいという気持ちを押さえ切れなくなる。唇に唇を押し当て、ねだるようにちろりと舌先でなぞり舐めると、リンドウの手が肩にかかり押し返そうとしてくる。
「もう少し、待って、ください……」
「もう待てねぇよ。充分休んだだろ」
「その……まだ、さっきの感じが残ってて……だから、またしたら今度こそ我を忘れてしまいそうで……」
「いいじゃねぇか、そんなもんとっとと忘れちまえ」
 リンドウの頬に当てていた手を後頭部に回し、引き寄せて深く口付ける。言い出したら聞かないキキョウの気性を理解しているのだろう、案外あっさりと抵抗を諦めたリンドウは素直に口を開き、先程の熱が残る舌を絡ませてくる。
「まだ、休んでたいんじゃねぇのか?」
「……休ませて、くれないのでしょう?」
 息継ぎの間に茶番のような言葉を交わし、再び深く唇を重ねる。どれだけ味わい貪ってもまだ足りないと果てがないのは、この感覚が刹那のものにすぎないからか。もし熱く一つに溶け合ってしまいそうなのに二人でなければ味わえないこの感覚が永遠のものならば、いつかは飽きがきてしまうのだろうか、それとも苦痛に変わり苛まれることになるのだろうか。
 どちらでもいい、二人の間にはどうせ永遠などないのだ。たとえ刹那のものだとしても幾度でも溺れられる。今この時を楽しめるならば、永遠などというものにそんなに深い意味はない。
 首筋から鎖骨、胸板の辺りをまさぐるとリンドウの鼻から甘い声混じりの息が漏れ出す。先程の交わりで汗ばんだ肌は程良く潤い、心地いい手触りを与えてくる。二度目以降のこの収まらぬ熱と艶を孕んだ肌の感触が好きだった。肩を押してリンドウの身体を仰向けにさせ、上から伸し掛かり脚を絡ませ互いの陰部を擦り合わせると、リンドウは息を詰めさかんに首を振った。思った通り、休憩が必要なほど体力を消耗しているわけではなさそうだった。
「休んでてもいいんだぜ? 何なら今からまた休憩にするか?」
「……そういう、意地悪を……言わないでください」
 頬を染めたリンドウはキキョウの首の後に手をかけて頭を引き寄せ、軽く口付けしてくる。すっかりその気になってしまったようでキキョウとしては喜ばしい。一度だけではとても足りない、一晩中繋がっていてもいい。
 この関係にもいつか終わりの時は訪れるのかもしれない、人の心がどう変わるかなど分かりはしないのだ。リンドウだけではなくキキョウも。それでも。
 永遠なんてどこにもない、それでもせめて生命尽きる時までは失いたくないと思ってしまうものに出会ってしまった。
 だから強く強く願う。最期のその時まで、置いていかないで。

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