繋いだ手が熱を持つ
繋いだ手が熱を持つ。恐らくもう二度とは触れ合えない体温を心の奥深くに刻みつけようと、感覚を研ぎ澄まし柔らかなその熱を掌の皮膚で感じ取る。
幾度組み敷いて犯して征服してもこの男の心は動かなかった。ただ毅然と凛と、愛する人を愛し続けた。
おめぇはオレが身体目当てなだけだって思ってたんだろうけど、本当は違うんだぜ。そんな本心を口に出す機会はついぞ訪れなかった。
もう少し歩いた先にある分かれ道が手を離す場所だ。だから悟られぬように、出来るだけ自然を装ってゆっくりと歩を進めた。手を離したくはないのだと口に出せない。出したところでこの男の心が変わるとも思えない。
どれだけの快楽にも屈辱にも屈しなかったこの男の心など、どうすれば変えられるというだろう。もしそんな方法があるならば悪魔に魂を売ってでも知りたい。決して屈しなかったこの男の心が今何よりも欲しい。この掌の温度同様に温かく優しいであろうこの男の心が、どうしても。
本当は祝福などしてやりたくはない、奪い去ってどこまでも逃げてしまいたい。だけど見栄っ張りなキキョウはその時になれば何でもないようなつまらなさそうな顔をして二人の門出を祝うだろう。本当は妬ましくて悔しくてどうしようもなく心が乱れるのは分かりきっているのに、素知らぬ顔をして。
素直な心を口に出せたのならば、何か変わっていただろうか。でもそれは無理な相談だ、捻くれきったキキョウが素直な心を口に出せるわけがない。お前の事などどうでもいいなどと心にもない態度を取ってしまう。どうでもいい女郎にならいくらでも甘い言葉を吐けるというのに、肝心の言葉は言い出せない。拒まれるのが怖い、これは弱さだ、だがどうしようもなかった。
分かれ道に辿り着き、リンドウが手を離す。掌に残る体温をどこかに留めておきたかった。それでは、と短く言って頭を下げリンドウは別の道を歩き出して行った。
言えない事など分かり切っているその台詞はすぐに脳裏から消え失せた、どうかお幸せに。
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