靴を履かせる

 朝の光に目を覚まし、つっかけで風呂を使って体を洗い流してから戻り、眠り続けるキキョウを横目に身支度を始める。いつもの作務衣を来てエプロンを着けたところまでは良かったが、ブーツを履こうと前屈みになると途端に腰が鋭く痛んだ。
「つっ……うっ」
「どうした、背中丸めて腰痛がるなんざまるで爺ぃだな」
 振り返るといつの間にか起きていたキキョウが肘をついておかしそうに笑っていた。誰のせいだと思っているのか、言葉を飲み込み痛む腰を無理くり曲げてもう一度ブーツの紐を結わえようとする。
「おい、ここ、座れ」
 キキョウが言ってベッドをぽんぽんと叩いてみせた。逆らうのも大人げないしキキョウが臍を曲げても面倒なので言われた通りにベッドの縁に腰掛ける。するとキキョウは起き出してリンドウの膝元に屈みこみ、何も言わぬままブーツの紐を結わえた。
「……兄弟子?」
「んだ、その鳩が豆鉄砲食ったような間抜け面はよ。こういう時は礼を言うもんだって教わらなかったのか?」
「あ、はい……ありがとうございます……」
 チッと舌打ちすると、キキョウは側に置いてあったもう片方のブーツを手に取りリンドウの足に履かせた。その仕草は今まで受けたどんな愛撫より壊れ物を扱うような優しい手付きで、長い指が紐を摘まみ引き絞る動きを見て何故だかどきりとしてしまう。
「おら、終わったぞ」
「ありがとう、ございます……」
「チッ、手間かけさせんな。お陰で目ぇ覚めちまったじゃねぇか」
 ぼやきながらキキョウは頭を掻きドアへと歩いていく。
「兄弟子、どちらへ……?」
「は? 顔洗うんだよ、文句あんのか」
「あっ、いえ、そういうわけでは……」
 狼狽えるリンドウを尻目にキキョウはふんと不愉快そうな息を吐き、今度こそドアを出ていった。

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