次の日、エ・ランテルの政務室でいつものようにアインズは只管に書類に印璽を押す作業を進めていた。
 昨日どれだけのことがあっても関係なく日々の政務は机に積み上がっている。内容をほぼ理解していないのだから政務をこなしていると言っていいのかは分からないがこの政務を滞らせないことはアインズの魔導王としての責任だ。
 ひたすら印璽を押し続けていると、鳩時計の鳴き声が響いた。ヌルヌル君にご飯を上げる時間を忘れないように導入した。今鳴ったのは正午の時報だった。アインズは印璽を横に置くと顔を上げた。
「もうこんな時間か。一旦休憩にする、お前たちも昼食にせよ」
 そう言いながらアインズは席を立ち、横に控えていたアルベドと後ろで跪いたアインズ番のメイド、天井の八肢刀の暗殺蟲エイトエッジ・アサシン達が礼をする。種族特性で飲食不要のアルベドはともかく、食欲増大のデバフを種族特性として持つホムンクルスであるメイドたちが食事ができないなどということは決してあってはならない。美味しいご飯をお腹一杯食べて満腹感を感じ満足と幸福に浸ってほしい。今のアインズの楽しみなど、そういう風にNPCが幸せだと思ってくれることくらいしかない、と気付いてしまったのはいつだったのか。だからアインズ番メイドの創設も全員がエ・ランテルへ着いてくることも一昨日まで一日中同じ部屋で貼り付かれていたのも毎朝着せ替え人形になっているのも唯々諾々と受け入れている。あんなに幸せそうにしているメイドたちに、自分の都合だけでやめろなどととても言えない。もちろんホワイト国家を目指すために、休息など一切取らずに働き続けるのが楽しいし幸せという信じられないようなワーカホリック揃いのNPCたちに交換条件を呑ませることは忘れないから、一方的に受け入れているだけなのかというとそういうわけではないのだが。それはそれで自分を切り売りしているようでもありなかなかつらい。
 自分からどんどん仕事を作り出して抱え込んでいくスタイルのデミウルゴスも、いつどれだけ休まなければならないのかを定めていなければ一生休まずに働き続けていたのだろうな、そしてそれを何よりも幸せに思っていたのだろうと思うと空恐ろしい。ナザリックの者は総じてワーカホリックだが、さすがにする仕事がなくなれば別のことで暇を潰すしかないだろう。だがデミウルゴスとアルベドは違う。なまじ賢いから細かい点にまで気が回ってしまって、いくらでも無限に自分から新しい仕事を作る。常に働き続ける。賢いというのも善し悪しだなと思わずにいられない。
 そんなことを考えながら用意されていた野菜をヌルヌル君に与え席に戻る。昼休憩は一時間と定めているのでまだ仕事はしない。アインズが仕事をしてしまうと他の者はアインズ様が動いていらっしゃるのに自分が働かないのは不敬という謎の思考を働かせるからだ。飲食不要でも食事はきちんと摂るように、と言いつけているにも関わらずアルベドは慈愛の女神の微笑みを浮かべたままで執務机の横にずっと侍っていた。
「アルベドよ、お前も昼食を摂れ。お前の義務だ。魔導国のナンバー2たる宰相がまず手本を見せなくては、下の者も食事や睡眠、休息を疎かにする」
「申し訳ございません、口唇虫をお世話なさるアインズ様を拝見していたらつい時間を忘れてしまいました」
「……毎日やっているのだ、そんなに珍しいものではなかろう」
「とてもお優しくて、穏やかで、譬えようもなく高貴でいらっしゃって、まるで一枚の美しい絵画のような光景でしたので」
 嬉しそうにアルベドは笑うが、正直その感性がアインズには全く理解できなかった。エ・ランテルの執務室はナザリックに遠く及ばないとはいえ豪華な造りで、足元から天井まである大きな窓から陽光が差し込む明るい窓辺は確かに美しい。絵に見えなくもないだろうが、そこにいるのが邪悪なアンデッドの王では台無しである。
「デミウルゴスはナザリックにいるのだったな?」
「はい、しばらくは第七階層を守護しつつ業務を進める、と報告を受けております。何かお命じになりたい事でもございましたらすぐに召し出しますが」
「いや、いい。特に用事があるわけではないし忙しいだろう。確か、聖王国も一段落したので、前々から命じていた情報機関の設立の諸々を中心にやっているのだったな?」
「左様でございます」
「大きな仕事がようやく終わったというのに休む間もないのだな。既に膨大な仕事を抱えているというのにあいつは次々に自分で仕事を作り出してしまう。昨日エ・ランテルを共に見て回っていても、行く先々で諸々の細やかなことに気を配っては様々提案を行って新しい仕事を作ってしまうのだ。悪いことではない、というか有能としか言いようがないが、あれでは気持ちが休まらんだろう」
「デミウルゴスが働き過ぎではないかとアインズ様は常に気にかけておられますものね。こんなにも至高の主に気にかけていただいて、深いご温情を受けられるとは、ナザリックのシモベとしてはこれ以上ない栄誉でございますので、デミウルゴスが知ればさぞ喜ぶかと」
「しかしなぁ、情報機関……デミウルゴスが適任なのはそうなのだろうが、本格稼働したらそれこそ仕事量が爆発的に増えるのではないか?」
「デミウルゴスであればアインズ様にご迷惑をおかけするようなことにはならないかと存じますが……ご心配であれば、設立までは任せるとしても稼働してからの統括は他の者に命じる、という方法もあるのではないでしょうか?」
 アルベドの何気ない提案に、アインズは意外な驚きを覚えた。その発想はなかった。だが。
「他の仕事であればそれでいいかもしれないが、情報機関だぞ。特に注意深さと知略と情報処理能力が要求される。お前とデミウルゴス以外に安心して任せられる者がいるか? 仕事量が心配だからデミウルゴス以外に、というのであればお前を任じるわけにもいかぬ」
「おりますでしょう、御手で創造なさった誰よりも信頼できる、わたくしとデミウルゴスと並ぶ智謀の持ち主が」
 慈愛の笑みを浮かべてアルベドはそう口にした。確かに、いる。(他にも様々理由はあるのだが主に)直視したくない黒歴史だから敢えて考えないようにしているその存在。
「ううむ……確かに、あいつであれば問題なくこなせる、であろうな」
「当然でございます。アインズ様直々に創造された優秀な領域守護者でございますから」
「しかしなぁ、うーん……まあ、情報機関も今は設立準備中の段階であるし、結論を急ぐこともあるまい。その提案は検討してみよう」
「ありがとうございます」
 深く礼をしたアルベドに再度昼食を摂ってくるように言うと、名残惜しそうにしながらアルベドは食堂へと向かっていった。どうせあと少しで昼休憩は終わりなのだからそこまで名残惜しそうにされる理由がアインズには全く分からない。
 その後粛々と政務をこなし、業務時間終了となる。アルベドとアインズはそれぞれ自室に下がり、アインズ番メイドと八肢刀の暗殺蟲エイトエッジ・アサシンたちはアインズの自室の隣の前室で待機となる。何か本でも読んで朝までの時間を潰してもいいのだが、どうせ朝までは長い、先に気になることを片づけてしまうのもいいだろう。今現在アインズが一番気にかかっているのは、ワーカホリック代表デミウルゴスの仕事量の話だ。デミウルゴスの仕事量を爆発的に増やすであろう情報機関の運用をパンドラズ・アクターに任せるというのは、悪い案ではないような気がした。パンドラズ・アクターにはその能力が十分に備わっているし、デミウルゴスは他の仕事に回せる。情報機関は仕事の性質上そんなに表立って動く機関でもないので、パンドラズ・アクターをあまりナザリック外に露出させたくないアインズの思惑からも外れないで仕事をさせられる。割と適任のような気さえしてきた。
 今日の晩はパンドラズ・アクターに宝物殿への帰還を許している日だった筈だ。検討するとアルベドには言ったが、本人の意向がまず何よりも優先されるべきだろう。それならば直接本人に考えを聞くのが手っ取り早い。
 まずは連絡係のエントマにナザリックに帰る旨をメッセージで伝えてから、魔法のベルで隣の部屋で待機していたアインズ番のメイドを呼び、宝物殿へ行ってくることを告げてアインズは〈転移門ゲート〉でナザリックへ戻り、預けていたリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを出迎えに出ていたシズから受け取ると宝物殿へと指輪で転移した。所定の手続きに従い進むと、整理途中だったらしきマジックアイテムの山の隙間でパンドラズ・アクターが胸に手を当て礼をしてアインズを待っていた。
「ご苦労」
「ようこそおいでくださいました、我が偉大なる創造主、ンンァアインズ様っ!」
 演技がかった大きな動作の礼とともに朗々と響いた挨拶を前に、アインズの羞恥は一気に高ぶり精神の急激な鎮静化が発生する。こいつと会うのはこの感情のジェットコースター状態を味わい続けるので大変疲れる。たまに顔を見せてやらないと可哀想かと思いつつもつい後回しにしてしまうのはそれが理由だった。
「それ、いつになったらやめてくれるんだ……」
「申し訳ございません、お目にかかれた感激のあまりついアインズ様の前でご無礼を」
「いや挨拶だから無礼ではないんだが……だからな、もうちょっと普通にできないか?」
「普通? はて、わたくし普通にご挨拶申し上げただけなのですが、一体何がいけないのかが非才の身には見当も付かず……」
「……ああ、いや、いい…………俺が悪かった。そうあれと俺が作ったんだものな……本当にそうあるなんて想像もできなかったとしても、俺が悪い」
 いつもだったら心の中でだけ頭を抱えるところだが、アインズは遠慮せずにパンドラズ・アクターの前で大きな溜息をついて頭を抱えた。そうあれと作った頃の俺を殴りたい、パンドラズ・アクターと何度会おうとも慣れられずに未だに羞恥に悶えさせられる。
 パンドラズ・アクターの私室に設えられたソファへと通され、すぐにコーヒーが出される。飲めはしないがコーヒーの豊かな香りは心が落ち着く、筈なのだが、当たり前のように隣に腰掛けたパンドラズ・アクターは相変わらず距離が近すぎて全く落ち着けなかった。とはいえ、いつまでもじゃれ合っていて話が進まないのも困るので無視する事に決めてアインズは軽く息をつくに止めた。
「して、本日はどのようなご用向きなのでしょうか?」
「うむ、今日少し話に上がっただけのことなので決定ではないのだが、まずお前の意向を確認しておこうと思ってな。魔導国で諜報を担当する情報機関が設立されるのは勿論知っているな」
「はっ、聞き及んでおります」
「その統括にお前が推挙されているが、どうだ、やってみる気はあるか」
 そのアインズの問いに、パンドラズ・アクターは沈黙を返した。すぐには答えられないだろうから答えを待つのはいいのだが、現時点でパンドラズ・アクターがどういう考えを持っているのかをアインズは知りたいから沈黙は少し困る。暫く互いに無言の時間が過ぎ、俯いて何やら考えを巡らせていたパンドラズ・アクターはようやく顔を上げると声を上げた。
「大変申し上げにくいのですが、お断りしたいと考えております。無論わたくしの能力を評価して頂いたからこそのお話だとは重々承知しておりますが、わたくしでなければ務まらぬ仕事ではなく、他に適任がおられるでしょう。そして、父上はわたくしを特別扱いはせぬと仰りました。わたくしもそれがよろしかろうと考えているのです。一番粗末に扱われるくらいが丁度よいと」
「……それは助かるが、唐突だな。どのような理由でその話だ」
「わたくし、父上が与えてくださった至高の御方々の御姿をお借りする能力やナザリック屈指の智者としての能力には憚りながら自信がございます。これらの能力を組み合わせ最大限に活用すればナザリックの更なる発展に大きく寄与できるという自負もございます。ですが、わたくしが父上から与えられたこの能力を活用して大々的に成果を上げれば、どうなるかというと」
「言いたいことは、分からなくもないが……」
「わたくしはただでさえ恵まれております。慈悲深き創造主である父上がこうして残ってくださっております。その上父上から与えられた力をひけらかす……というつもりがわたくしになかったとしても、ひけらかしていると捉える者はおりましょう。そもそも、デミウルゴス様はきっととてもお好きでしょう、情報機関のトップとかそういうお仕事」
「うむ、多分な。向いているだろうし好きだろうと思ったのでデミウルゴスに設立を任せたわけだしな」
「でしたら、それを横から掠め取って恨みを買うようなことはしたくございません。父上がお命じとあらばわたくしもあの方に負けない成果を上げるつもりで取り組みますが、だからといって禍根とまではいかずとも蟠りを生んでまでやりたいかというと、そんな事は全く思いませんので、本決定ではないのならば辞退させていただきたいです。他の仕事についても同様です。船頭多くして船山に登る、とも申します。アルベド様やデミウルゴス様のように国家の大方針を定められる有能な智者は現状足りております。そしてお二人ともとにかくアインズ様に成果を褒められたいとお考えでしょうから、わたくしが出しゃばってもナザリックにとってあまりいい結果は生まないかと考えます。わたくしがあのお二人と同じように全力で仕事をすれば必ず角が立ちます。お二人だけではございません、ナザリックの全ての者が成果を上げて父上にお褒めいただきたいと考えているのに、父上がおられるわたくしが父上に与えられた能力を使い他の者に与えられるはずだった仕事を奪って褒められれば、そこには必ず不和の種が生まれますし、褒めないというのもそれはそれで片手落ちでございましょう。現状のようなわたくしでなければ務まらぬ仕事や他の方のお手伝いであれば喜んで務めさせていただきますが、基本的にはあまりわたくしが先頭に立つべきではないと考えるのでございます」
 パンドラズ・アクターの主張は理路整然としていた。アインズやパンドラズ・アクターにそのつもりながなかったとしても、パンドラズ・アクターが表舞台で派手に活躍すればアインズが手ずから創造した者だから、とナザリックの者は皆心のどこかで思うだろう。黒歴史を直視したくなかった、というのも勿論ある。仲間たちの能力と何よりその姿を失うわけにはいかない、スキル的にも能力面でもナザリック地下大墳墓の財政面の一切を任せられる人材がパンドラズ・アクターの他にはいない、他にもいくらでも理由はあり、だからこそパンドラズ・アクターの様々に活かせる比類ない強力な能力を勿体なく思いつつも影武者としてしか表に出していなかったのだ。人手が足りないため宝物殿から出したものの、ナザリックを第一に考えるならばもしかしたらアインズ以上に絶対に失ってはならない存在だ。金貨で蘇生できるとはいえ無駄な出費は避けたいし、それ以上にパンドラズ・アクターという存在の情報をナザリック外の者に知られるような可能性は排除するべきだ。もしアインズの影武者としてではなくパンドラズ・アクターとしてどうしても表に出さなければならなくなっても、シズ同様記憶の内容を調整してからになるだろう。
「デミウルゴス様は確かに膨大な量のお仕事を既に抱えておられるのでしょうが、忙しすぎて手が回らないような状況であれば冷静に判断されて辞退される理性と判断力をお持ちの方ではないですか? 手に余る量の仕事を抱えて溢れさせればかえって利益を損なうという簡単な道理など当然弁えておいででしょう。真面目な方なのは確かですがそれ以上に比類なく賢いのですから、そんな要領が悪いことをするとはとても思われません。父上ももう少しその点を信頼されてもよろしいのではないですか」
「今日のお前はなんだか矢鱈と正論で殴ってくるな……あまりストレートで殴られると痛い」
「衷心からの諫言でございますので、お耳には痛かろうと存じます」
 反論の余地がない正論に正面から殴られ少しだけげんなりとしてアインズがぼやくと、パンドラズ・アクターは肩を竦めてやや俯き、帽子のつばのふちを軽く摘まんで、ゆっくりと二度三度頭を横に大きく振った。なんだか無性にムカつく動作である。
 だが言っていることは正しい。仕事を溢れさせるくらいならば確実にこなせるだけの量をこなすことをデミウルゴスは選ぶだろうし、自分がどれだけの量をこなせるのかということも正確に把握しているだろう。アインズなど及びもつかないほど賢いのだ。デミウルゴスは確かに働きすぎで心配だが、デミウルゴスが自身に無頓着というわけではないかもしれない、という視点は足りなかった。よくよく考えれば、仕事の抱えすぎで首が回らなくなりアインズに褒めてもらえなくなるような下手を打つ男ではない。要領など良すぎて怖いくらいだ。
 アインズが決裁の印璽を押すだけでげんなりする量の仕事をこなしているのに、本人談だが休息は定められているだけ取って趣味の大工仕事を楽しんでいるらしいのだから、どれだけ要領よく仕事をこなせばそんなことができるのかなどアインズには想像も付かない。アインズに決裁の書類が回って来るのは決裁が必要な分だけだから、そこまで至っていない仕事も含めるとデミウルゴスの仕事量は想像を絶するだろう。考えただけで気持ち悪くなってくる、アインズはデミウルゴスの仕事量のことをそれ以上具体的に想像するのをやめた。
「しかし、設立に尽力されているデミウルゴス様ではなくわたくしに任せる、というのは一体どなたのご意見なのです」
「アルベドに提案された。デミウルゴスが完璧に仕事をこなすからといって数多く仕事を割り振りすぎているのを普段から私が懸念していることは周知の事実であるし、情報機関の統括というのは任せられる者の限られる非常に難しい仕事だ。デミウルゴスを外すならば適任はお前しかいない、という提案は理に適っていると思ってな」
 当然の疑問だし特に隠す必要も感じなかったので正直に答えるとパンドラズ・アクターは何故か沈黙を返した。しばし何事か考えた後、ゆっくりと言葉を返す。
「まあ、そうでございますね。ですが現在情報機関の設立に奔走しており当然そのままその仕事を継続するおつもりのデミウルゴス様への確認を先にするのが筋かと思いますので、それをすっ飛ばしてこうしてわたくしに話が来ている状況はあまりよろしくないかと」
 どうやら耳に痛い諫言はまだ継続していたらしい。ぐうの音も出ない正論を言われアインズはややたじろいだ。
「……ふむ、難しいな。軽い気持ちでまずお前の意向を確認しようとしただけだったが、確かに筋違いだったな。正直私は、デミウルゴスに確認など取ったら無理をしてでも続けようとするだろうと思ったので、お前が同意するならばそれを説得の材料に使おう、という目的もあってお前の意向を先に確認しようと思ったのだ。しかし、お前の言を容れるならデミウルゴスは無理であればきちんと断るからまず確認せよ、ということか」
「左様でございます。どうしても情報機関の仕事をやりたいが仕事量的に無理、というなら、あの方であれば優先順位をきちんと適切に付けて手放す仕事を決め、他の者に割り振り直す事を父上にご提案された上で引き受けられるでしょう。恐らく筋金入りの完璧主義者でございますから、完璧にこなせなくなるような限界を超えた量の仕事を抱え込むような方ではないと思われます。しかし、そういった道理の分からぬアルベド様でもないと思うのですがね、そう思うと不思議なご提案です」
 そう疑問を口にするとパンドラズ・アクターは口を閉ざして首を軽く捻った。アインズとしてはアルベドの提案には別段不自然さを覚えなかったので、パンドラズ・アクターは一体何を気にしているのかが全く分からない。アインズがデミウルゴスにこれ以上仕事を割り振って忙しくさせる懸念を口にしたことへの回答としての提案だったし、態度にも何も不自然さはなかった。一番の適任でもあるし、今現在設立に動いているデミウルゴスがそのまま統括するのが一番自然な流れであるのは確かだが、それに深い考えもなく待ったをかけようとしたのは他ならぬアインズで、横にいたアルベドがそれならばと代替案を出しただけにすぎない。
「どうだろうな。アルベドがそう言ったのは、私がデミウルゴスにこれ以上仕事をさせるのを強く心配したため、それならばという提案だったから不思議ということはないと思うが。アルベドとデミウルゴスはお互いにライバル意識というか、張り合っているような点も見受けられるから、デミウルゴスがさらに重要なポストを占めることへの対抗意識からのこととも考えられなくもないが、それにしても別に不自然ではなかろう。それに今回は特に私の希望から出た話だし、そういう時にはアルベドは私の意向を絶対視して、そういった私以外の者の気持ちなどへの配慮はあまり大事にはせぬから、だからこそ私がもっと深く考えて気付くべきだったのだ。お前に指摘してもらえてよかった」
「わたくしどもナザリックのシモベは皆、至高の御方々のお役に立つために存在する者です。他ならぬ我が創造主のお役に立てたとあらば、これ以上の喜びはございません! このパンドラズ・アクター、この身を埋め尽くし溢れ出すような感激に打ち震えております! 我が偉大なる創造主たる、ンンァアァァインズ様っ!」
 テンションが上がりすぎたのかパンドラズ・アクターはソファに膝立ちになると腕を振りポーズをいくつも決めながらアインズに向けて感激を猛烈に自己主張してきた。動作も声もうるさすぎる。ぐわし、と真正面から顔を鷲掴みにしてアインズは低く声を放った。
「分かったから、黙れ」
「……は」
 ようやく静かになったパンドラズ・アクターの顔から手を離すと、パンドラズ・アクターは静かにソファに腰掛け直した。相変わらず距離は近すぎるが、知恵者であるパンドラズ・アクターが一度言われたことを忘れるとは思えないので恐らくは意図的に無視している。くどくどと注意し続けるのも疲れるし、他の者がいなければまあいいかと思いアインズはスルーすることにした。
「いやしかし、そういった私の考えが及ばぬところへの指摘は特に重要だ。その点はお前は妙な遠慮がなくて助かる。私とて全てを見通せるわけもないし、全て正しいわけでもない。あまり深く考えずに間違えることもある。そのような時に行動を間違えぬように指摘してほしいのだ」
 間違っていたら注意してほしい、切なるアインズの願いはなかなか叶わない。どういう訳か斜め上の方向に勘違いされてアインズが偉大だということになってしまう。そうじゃないだろ、とツッコみたくても、それをするには己が凡庸であり間違える存在なのだとまず皆に理解してもらう必要がある。アインズは絶対に間違えない、という間違った前提があるから皆妙な解釈をしてしまうのだ。だから(その前提がないわけではないのだろうが)おかしいと思えば無理にアインズが正しいという方向に解釈しようとせずにそのまま指摘してくれるパンドラズ・アクターの存在は貴重だ。
「遠慮、でございますか。皆さまアインズ様の智謀に敬服して己ごときが口を出せぬとお考えなだけなのでは。一見考えがない行動のように見えても、その実深い思惑が潜んでいる可能性を慮っておられるのでしょう。わたくしも考えぬわけではないですが、今回は長期的に見てもナザリックにとって損失を生むのではと判断したので敢えて諫言しただけでございますから」
「それを遠慮と言うのだ。疑問があるなら実際に行動を起こす前に妙な遠慮などせず解決すべきだろう。それこそが真にナザリックの利益になると、どうも皆には分かってもらえん」
 軽く溜息をつきつつアインズが答えると、パンドラズ・アクターが目線を向けゆっくりと口を開く。
「わたくしが言うのも妙でございますが、誰もが常に功利的に行動できるわけではございません。もちろんわたくしどもナザリックのシモベにとっては、ナザリックと至高の御方々のお役に立つことが何よりも優先されますが、アインズ様とナザリックどちらを優先して考えるべきか、というのは非常に難しい問題なのではないかと。それぞれの価値観や考え方、その時の状況でどちらが優先されるかも変わりましょうし。わたくしは常に利益かどうかが先に立ちますので、敬意を大事にされる他の皆さまから見ればアインズ様に対し不敬と思われるやもしれませんね」
「私の全ての行動はナザリックをより強化し守るためのものなのだ、ナザリックを優先して考えてくれることを私は何よりも望んでいるし、それが結果的に私の為にもなるのだがな……皆にとってはそうもいかぬということか」
「左様です。それだけ至高の御方々に対する我々の敬愛は深い、ということでございます」
 堂々と答えたパンドラズ・アクターは大袈裟に頷いてみせるが、至近距離のその感情の読めない埴輪顔をアインズはじとりと見つめた。
「お前、敬愛している割にやけに距離が近いのはどうしてだ。パーソナルスペースという言葉を知らんのか。お前の図々しさからは欠片も尊敬を感じないぞ」
「アアッそんなご無体な! 尊敬すればこそ近付きたいという滾るこの胸の思いが溢れ出し! もっと! もっと近付かせてください、あなた様のただ一人の息子をどうぞ抱き締めてくださいませ、父上えぇっ!」
 至近距離のパンドラズ・アクターが心外という内心の思いを大きな動作にそのまま表し、謎の手振りでアインズに訴えてくる。手がぶつかりそうでぶつからないのは不思議ではあるのだが、ぶつかりそうで怖いから本当にやめてほしい。
「ええい寄るな! お前はもう少し距離を置け!」

***

 話すべきことも話したしパンドラズ・アクターの考えも知れたのでアインズは帰ることにした。パンドラズ・アクターもマジックアイテムの整頓の途中だったようだし、趣味を兼ねている仕事だから思うさま没頭したいだろう。
「最後に一つ聞かせてくれ、パンドラズ・アクターよ」
「は、何でございましょうか」
 跪いたパンドラズ・アクターがアインズの呼びかけに顔を上げる。問いを口に出すのを一度躊躇って、そんなに躊躇うようなことでもないと思い直してアインズは口を開いた。
「お前たちにとっては、ナザリックと至高の四十一人の役に立つことが何よりの喜びなのであろう。ならばお前も他の者のようにそれを追求したいとは思わないのか」
「わたくしなりに追求した結果でございます。長期的に見れば、現時点ではわたくしはあまり前に出ない方がナザリックひいては父上の為でございますので。御身の影武者を務めさせていただいてささやかながらもお役には立てているかと思いますし、ナザリックに戻れば宝物殿やその他のわたくしだからこそ務められる仕事もございます。この身には過分な程の喜びを父上には既に与えていただいております」
「お前がそう言うなら、それでよいのであろうが……まあいい、それでは仕事を邪魔して悪かったな、また来る」
 翳った感情など何も感じさせない澄んだ明るさを感じさせる声で朗々と語るパンドラズ・アクターを見つめているのがそれ以上居たたまれず、素っ気なく言い残してアインズはナザリック地表部へと指輪で転移した。シズに再び指輪を預けて部屋までまた転移で戻ると待機していたメイドを下がらせ一人で使うにはあまりにも広すぎる豪華なベッドに腰掛けた。
 あの遠慮ぶりでもパンドラズ・アクターはマジックアイテムの整理や手入れという自らの趣味を大事にしてアインズに直訴するような面があるのだから、他のワーカホリックたちよりは多少は自分を大事にしている。仕事が趣味になってしまっているのは設定のせいなので、完全に厨二病時代の鈴木悟の罪だからあいつを責めるべきではない、というのはアインズにも流石に分かる。
 こういうところはきちんと遠慮しているのにどうして物理的な距離は無遠慮に近付こうとするのだろう、というのは解けない謎だった。遠慮というのは距離を取られるということで、目線を合わせないということだ。アインズは至高の四十一人の一人にしてそのまとめ役、NPC達にとってはいと尊く仰ぎ見るべき造物主なのだから近寄ってもらえないのは当然なのだろうけれども、それがどうしようもなく情けなく寂しい。
 それにしても(NPCらしくない、というわけではなくナザリックと至高の四十一人至上主義の思考回路は間違いなくNPCのものなのだが)パンドラズ・アクターは恐ろしいほど冷静に周囲の状況を把握しているのだな、と自分が創造したNPCながら空恐ろしさをやや覚える。あまり前に出ない方がいいという判断もあって意識的に距離を置いているせいもあるだろうし、知恵者らしいといえばらしいのだが、仮にも仲間に対してあまりにもドライすぎないだろうか。情が薄い、と感じてしまうが、ナーベラルのことを考えればドッペルゲンガーという種族の特性というわけでもなさそうである。彼女は特に姉妹という設定のプレアデスのメンバーととても仲がいいし、その愛情を少しだけでいいから人間に分けて虫呼ばわりするのだけでもやめてほしいとつい思ってしまうくらい深い愛情を持っている。他のナザリックの者に対してもあんな一歩引いた見方で評価はしていない。
 仲間に対してドライ、なんて設定をパンドラズ・アクターに付けたわけではないから、他のNPCが程度の差はあれどそれぞれどこか創造主を思わせる性格であることを考えれば、アインズ自身の影響なのではないか、と思えた。俺ってあんな利益最優先で情が薄い奴なのかな、と思うと少し落ち込む。
 パンドラズ・アクターは影武者でしか表に出していないし、他は宝物殿の仕事やアンデッド作成、エクスチェンジ・ボックスでのアイテムの査定など裏方の仕事を主にしている。そういう意味ではNPC同士の人間(?)関係からは距離を置いているのは確かだし、自分から歩み寄っていく様子もないように見える。俺ももしかしてああだったのだろうか、と思わされて更に落ち込む。
 答えなど今更確かめようもないし、今更正解が分かったところで無意味だ。それでも部屋で一人でいれば、考えても無駄なことばかりがぐるぐると頭を駆け巡る日もある。
 一時だけでも眠って忘れてしまえるならばもっと楽だったのにな、とは思うがどうしようもない。身体の仕組みとして睡眠によって休息させる脳も内臓もない、魔力が体を動かしているだけの死体であるアンデッドは眠れないのだから。
 しかしパンドラズ・アクターに散々正論で殴られたのだ、デミウルゴスの意向を確認しないわけにはいかなくなってしまった。正直なところ、己が凡庸であると打ち明けたにも関わらずデミウルゴスと顔を合わせることに感じるアインズの心労は何も減っていない。デミウルゴスに己の告白が信用されている様子がどうも見受けられなかったからだ。
 俄かには信じ難い、という気持ちは分かりたくはないが分かる。そう簡単に信用されるようならばそもそもアインズはこんなにも心悩まされることはなかっただろう。謙遜ではないことを信じなければ話を終わる、とまで強く言わなければ多分まともに聞いてすらもらえなかった。それくらいNPCのアインズへの信仰と神聖視は根が深い。
 アインズの間違いや勘違いについて比較的直言してくれるパンドラズ・アクターさえ基本的にはアインズのことを神算鬼謀の持ち主と思っている節がある。根が深すぎてどうしようもない気がする。だがそれにしても、反旗を翻されても仕方がない失態だ、と相当落ち込みながら打ち明けたというのに信用されないのは余りに酷すぎないだろうか。
 ただ、自身が凡庸と打ち明けたのだからデミウルゴスに改善してほしいことがアインズは一つあった。報告書も稟議書も研究レポートもどれも難しすぎる。もっと図とか表を豊富に入れて分かりやすい言葉で書いてくれないと何も理解できない。謎のカタカナ言葉や難解な専門用語が多すぎるし字も小さすぎるうえにびっちり詰まっていてしかもやたら分厚いので読む気がなくなる。アインズがデミウルゴスなど及びもつかない智謀の持ち主というのは完全な誤解である、と説明したのだから書類もアインズの頭脳レベルに合わせてほしい。
 本当ならば書類ではなくて疑問点をその場で質問できるようにデミウルゴス自身に説明してほしいのだが、外での仕事も多いデミウルゴスをそんな事の為にいちいち呼び戻すわけにはいかない。書類の不明点について以前に一度メッセージで質問したことがあったのだが、デミウルゴスの声は何故だか妙に精彩を欠いていたので、業務連絡ならともかく質問のメッセージは何か困るのだろうかと思ってしまってなかなか使いづらい。多分完璧に記述したはずの書類にアインズが(能力が足りなくて理解できないから)質問したため、不備があったと誤解しているのだろう。パンドラズ・アクターの見立て通り相当の完璧主義者だろうから、それで落ち込むのは当たり前かもしれない。お前の問題ではない、お前は(多分)ちゃんと書いている、俺が理解できないだけなんだ、と言って誤解を解いてやりたい。
 腕の時計を見ると時刻は二十一時を回ったところ、この世界基準では深夜だが元日本人の鈴木悟的には宵の口だ。ナザリックの者が休息を取るよう定めている時間には既に入っているが、デミウルゴスも恐らく寝てはいないだろう。気は重いが面会の予定を入れて話しておく必要がある。
「〈伝言メッセージ〉……夜分遅くにすまんな、デミウルゴス、今時間は大丈夫か」
『はっ、何も問題はございません、アインズ様直々のご連絡とは何か緊急の案件でしょうか』
「いや違う、お前の意向を確認しておく必要がある用件があってな。できれば顔を合わせて話したいのだが、明日の夜にでも時間は取れるか」
『アインズ様のご用件は何よりも優先されるべきもの、たとえいかなる予定があろうともお呼びとあらば即座に馳せ参じます。明日の夜は優先すべき予定は特に何もございませんのでお伺いするのに何も問題はございません』
「ではエ・ランテルに……いや私がナザリックに戻ることにしよう。夜の十九時にナザリックの私の部屋へ来るように」
『かしこまりました、明日みょうにち十九時に御前に伺います』
「よろしく頼む、ではな」
 メッセージを切断し、ついでにペストーニャにもメッセージで予定を伝えておく。誰かが御前に控えていなければとか言われるのは目に見えているし、さすがにその辺りはアインズも学んだ。メイド長であるペストーニャに伝えておけば所定の時間に適当に誰かをナザリックのアインズの部屋に配置しているだろう。
 本来ならばその辺りの人員配置の管理はセバスの仕事だが、セバスは現在エ・ランテルに詰めてエ・ランテル行政府の人事や渉外の統括をしている。最高責任者は宰相アルベドだが彼女は魔導国全体の内政一切を取り仕切る立場であり、セバスはエ・ランテル内の現場の責任者という立ち位置だ。人間とも顔を合わせることが多いので、人間に不要な恐怖を与えない者を選ぼうとすれば見た目だけでアウトな者だらけのナザリックの中では任せられる者が非常に限られる仕事であり、地位や能力や人柄を合わせて考えれば最も適任だからどうしても外せない。ペストーニャもユリやニグレドと共に孤児院を任せるようになってからはエ・ランテルに出向していることも多くなったが、メイドたちの取り纏めは依然彼女の職務であるし、ナザリックに残っている副執事のエクレアに申し付けるのは何となく不安が残る。掃除は完璧以上にこなすペンギンだが頼りないなぁ、とどことなく思ってしまう。感覚的な話だが、デミウルゴスやセバスやペストーニャには確かに感じる仕事が出来る者特有のオーラは、残念ながらエクレアには感じられない。レベル一の分際でナザリック支配という野望に燃える設定の癒し系ペンギンだからそんなものいらないといえばそうなのだし。創造主に与えられた設定を全うするのはNPC達にとっては喜びのようだから、餡ころもっちもちさんが考えた設定を守るな、というのも酷な話だろう。
 それにしてもデミウルゴスと会うのは依然気が重い。パンドラズ・アクターのように正論で詰めてくるようなことはしないが、迂闊なことを言えば斜め上に解釈されて神算鬼謀の化けの皮を上乗せされるよりは正論で詰められた方がまだ気が楽だ。
 アインズ様の言うことは全て正しい。NPC達がよく言う言葉だ。そんな訳ねえだろ! と早い段階で否定しておけばよかったのだろうが、今更言っても遅い。あの頃アインズは、少しでも弱みを見せれば忠誠を翻されるのではないかということを最も警戒していたのだ。自我を持って行動しているとはいっても、NPCは人間とは行動原理や価値基準そのものが違う、そこのところをアインズがしっかりと理解できるまで相当の時間がかかったのが原因だ。
 NPCは創造主であるギルドメンバーの為にナザリックという拠点を守るというゲームの中の設定に縛られ続けている。それこそが彼らの生きる目的であり意味になってしまっている。至高の御方々やナザリックの為に働くという崇高な目的を生まれつき持たず、目的なく無意味な人生を送ってしまうこともある人間をNPCたちは蔑むけれども、ユグドラシルはもう終わってしまったのに未だにゲームの中の設定に縛られているNPCたちをこそアインズは哀れに思ってしまう。生まれつき目的などないからこそ人は自分で目的を見つけ出す自由があるのに、NPCたちにはその自由がない。
 だから、心のどこかで感じてしまうのだ。彼らの忠誠もまた、ゲームの設定に縛られている故のものであり、真にアインズに向けられたものではないのではないか、と。
 でも例えば、生まれた時から王子であれば王子という地位に対して家臣は忠誠を向けるわけだから、それと似たようなものなのかもしれない。自分自身の価値に心を向けてほしい、というのはあまりにも贅沢だしその価値が自分にあるのかと問われてもありますと答えられる自信もない。ただの平凡なサラリーマンだったのに突然王族みたいな悩みを持ってしまったことに対する困惑だけが確かなものだ。
 NPCたちを信じられないのは、結局のところアインズが確固たる自信を持てていないから以外の要因はないだろう。NPCから向けられる期待が過大すぎる、というのを置いておいたとしても。
 こういうことを相談できる相手が本当に欲しい。勿論帝王学や王に相応しい礼儀作法、社交界の基礎知識などアインズが知るべきだがどう勉強したらいいか分からずにいる知識も教えてほしい。それをジルクニフに期待していたが、アインズに対しては非常に他人行儀なのになぜかクアゴアの氏族王とは最近非常に懇意にしているような話も耳に入ってきているので微妙な心持ちを抱えている。クアゴアの氏族王は確かにクアゴアにしては礼儀作法が出来ているが、ジルクニフのような人間の中でも特に高度な知略を持った皇帝と話が合いそうには思えなかったので、意外な取り合わせだというのが正直な感想だ。アインズが人間ではないから忌避感を持たれているのかと思っていたが、クアゴアに親近感を持つ理由もジルクニフにはないだろう。
 クアゴアにだって友達がいるのに俺ときたら、なんて考えたら余計みじめになってしまうだけだ。
 自分でできることをせめてするしかない。古代図書館アッシュールバニパルからこっそり借りておいたビジネス本をアイテムボックスから取り出し、アインズはこれを読んでしっかりと理解することに今夜を費やすことを決めた。

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